味の台湾

焦桐(著), 川浩二(訳) 『味の台湾』は2021年10月に発売された単行本です。


著者の焦桐は詩人で、長らく食文化に触れる文章を書いている人です。内容は、台湾の様々な小吃、つまり庶民のメニューがひとつにつき数ページ程度の長さの軽いエッセイとなっていて、寝る前にちょっと読むのに丁度良い感じになっています。

日本であればさながら味噌汁や雑煮のように、台湾でも同じ名前の料理でも地域によって違うようです。様々な台湾の小吃も台湾の各都市、特に南北で具材や調理法が違うことが記されています。
そしてその台湾の食文化は、日本が統治していた時代や中国全土の中国国民党の人々が平地の少ない台湾に逃げ込んできた時代を経ていて、複雑な様相を呈しています。

この文章がなかなか良くて、こころをくすぐるというか、郷愁とか記憶とかを呼び起こすというか、そんな気持ちにさせる文章になっています。

美食家によるグルメエッセイと書いてしまうとちょっと違っていて、サヴァランの美味礼讃よりは庶民的で、むしろ東海林さだおとか椎名誠の食べ物エッセイに近いところがあります。

とはいえ爆笑を誘うようなものではありません。それぞれの料理が街の歴史の中でどういう存在になっていて、庶民に愛されているか、あるいは著者の記憶の中でどのように生きているのか、などを淡々と、時に郷愁や苦い思い出等と共に綴っている感じです。

みすず書房の解説によると、原著の『味道福爾摩莎』は、台湾飲食文学の聖経と評されているそうで、著者が日本語版の序に書いてあるように、原著に収録されている160篇のうち60篇を収録したもののようです。 また、訳者のあとがきにあるように、並べ方をふくめ、編集者と共に相当苦労をしたようです。

あと、これもおそらく、翻訳者と編集者の功績だと思うのですが、それぞれの漢字のメニューや食材に丁寧に中国語のルビが振ってあり、頭の中で声を出して読んでみると、これがなんとも美味しそうに感じてくるのです。

翻訳者 川浩二さんのTwitter解説とコメント (Youtube動画も付けてみた)

翻訳者の川浩二さんが、Twitter( @chuanweikoji )で解説とコメントを寄せておられます。たぶん読み返そうと思ったときにはツイートが流れてしまって読みたい時に見つからないと思うので、自分用に以下に保存しておきます。
また、文中に出てくるお店の動画がYoutubeに載っていたりするので、川浩二さんとは関係ありませんが、それも併せて載せておきます。

担仔麵 (ターアーミー:エビと肉そぼろ入り汁麺)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1462947110832140292
焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント1「担仔麵」
日本でも早くから受け入れられた担仔麵は、台南発で全国化した。料理の定義から由来、取り上げるべき店の話から個人的な体験につなげる手法はオーソドックスで、巻頭を飾るにふさわしい。「古早味」というキーワードも登場する。#味の台湾  

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肉臊飯 (バーソープン:豚角切り肉の煮込みぶっかけ飯)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1462991724884627461
焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント2「肉臊飯」
日本でもっとも有名なはずの台湾料理の「滷肉飯/魯肉飯」が本書の目次にないことを不審に思った方も多かったのでは。その理由は、もともと「滷肉飯」だった一篇を、翻訳の底本『味道福爾摩莎』で著者焦桐が「肉臊飯」に改めてしまったから。

内容は「肉臊飯」の台湾南北の差、人々の生活への溶けこみ具合が書きこまれている。「それぞれの家の路地の入り口あたりにはしばしば夢の肉臊飯の店があり、そうした近所の小吃店も名店の味に決してひけを取らないだろう、ということだ」という一節はまさにこの食べものの本質だといえる。#味の台湾

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感想&コメント

台湾北部では魯肉飯(ルーローハン)、滷肉飯と呼ばれ、南部では肉臊飯と呼ばれるので、Youtubeでは魯肉飯で検索した方が早いです。

白斬鶏 (バイジャンジー:蒸し鶏)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1463321436576104449
焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント3「白斬鶏」
「白切鶏/白斬鶏」は『中国くいしんぼう辞典』と重なる数少ない項目なので、読み比べると二書の方針の違いが分かりやすい。ここで最初に福建・広東における客家と台湾との関係が取り上げられ、そこから著者自身の経験につながる。#味の台湾

焦桐の公私に渡るパートナー謝秀麗は客家の家の生まれだ。その彼女の実家を大学生のころはじめて訪れたエピソードが秀逸なうえに、最後は東南アジアの華人の食にまでつながる盛りだくさんな内容になっている。「カシラ一つで七杯飲れて、モミジ二本で甕が空く」はなかなか軽快な訳にできた。

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肉円 (バーワン:豚肉とタケノコ餡の葛まんじゅう)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1463372996073050114
焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント4「肉円」
「豚肉とタケノコ餡の葛まんじゅう」はこの奇妙な料理の名前の訳として要を得ていると思うのでぜひお店でも使ってください。下の娘さんの「双双」初登場、赤ん坊のころの短いエピソードだが印象に残る。#味の台湾

南北による違いを書き出し、店名を多く取り上げる本書における印象的な構成がよく表れている。ただし滞りなく進むのではなく、「ああ、人生には肉円を食べるときのように、あわただしく進まなければならない瞬間のいかに多いことか」こういう一行を不意に入れてくるのが著者の本領発揮というところ。

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感想&コメント

食べ比べ企画の動画が成立しているところや、長蛇の行列ができている店舗の映像を見る限り、肉円が地元の人気B級グルメとして定着していることがうかがい知れます。

虱目魚 (サバヒー)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1463649900567019522
焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント5「虱目魚」
朝食にうまいサバヒーを食いたいがために家を早く出る夫と、朝の浮気を疑う妻、ともにほほえましいというよりはエネルギーに圧倒される。著者の仏頂面のままおもしろいことを言う感じ、うまく伝わっただろうか。#味の台湾

魚のワタだけを調理して客に出す料理にするのは日本でも漁港ならないことはないけれど、台北や台南という都会でそれができることのすごさがある。食のエッセイにしてはかなり長いが、二回、三回と折り返されて個人のエピソード、台湾全体における状況を重ねていくので最後まで乗せられていく。

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感想&コメント

阿堂鹹粥で値上げが行われ、おかゆ一杯が200元になったということで高すぎるんじゃないかというニュース。ネット民のコメントは、お店に同情的。
それにしてもサバヒー(ミルクフィッシュ)はアジア各国で食べられているのに、日本ではとんとなじみがない。台湾グルメあたりから日本にも上陸してもいいのではないか。

米粉湯 (ミーフェンタン:米めん入りスープ)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1463713969391091716
焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント6「米粉湯」
米粉湯は大きく分けて出汁に豚骨や内臓を使うものと、魚などを使うものがある。その二つはほぼ別の料理といってもよいほどなのに、一篇の中でともに説き及んで余すところがない離れ業に、思わず喝采してしまった。この一篇は締めもいい。#味の台湾

原文の豚の内臓肉へのきめ細かな視線に対して、漢字は残しつつ日本の焼きとんなどの部位の別称を注するという方式を取って訳した。けっきょく自分が身を置くのと別の文化圏を理解できるかどうかは、身近なところをどのくらい細かく理解できているかにかかっている。自戒をこめて。

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感想&コメント

文中には新竹旗魚米粉という店名で載っていますが、上記YouTubeなどネットなどで見ると看板には旗魚新竹米粉と書いてあります。

木瓜牛奶 (ムーグアニウナイ:パパイヤミルク)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1464053635885633538
焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント7「木瓜牛奶」
パパイヤのやさしい甘みに牛乳のまろやかさがぴったり合う木瓜牛奶は、やはり若い人、とくに女性のイメージが強いのではないかと思う。著者はそれを書くにあたり自分の青春の蹉跌によせる。#味の台湾

「木瓜牛奶を思い出すようには青春の月日を思い出すことはできない」新鮮さ‐甘みという要素を、若さ‐苦みと一つを逆方向に置き換えることで、食べものと自分の感情の対比が両方を際立たせる。この技法は焦桐作品の特徴といえる。

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焼肉粽 (シウバーツァン:肉入りチマキ)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1464120812466622466
焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント8「焼肉粽」
ちまきは台湾でも南北やエスニック・グループによる違いが大きく、話題にことかかない。物悲しい歌詞の流行歌と自分の経験から始めて、それぞれのちまきの特徴と共通する点を重ねていくことで、読者の共感できる点がうまく用意されていく。#味の台湾

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芒果牛奶氷 (マングオニウナイピン:マンゴーミルクかき氷)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1464511814327103493

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント9「芒果牛奶氷」
ここも苦い青春の思い出と新鮮なフルーツの取り合わせ。「マンゴーとかき氷は生まれながらの好一対だ。二つがともに夏の日のラブソングを奏で、人々に生活の中の美しさに気づかせる。」マンゴー産地の玉井にたまらなく行きたくなる。#味の台湾

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  • 阿月芒果冰

感想&コメント

ここに限らず、現地のかき氷のメニューや店名には「氷」ではなく「冰」の字を使っていることが多いようです。
玉井は台南の北東に位置する山間部でマンゴーの産地として有名。阿月芒果冰の近くにある有間氷舗芒果氷というお店も有名なようです。

沏仔麵 (チェッガーミー:モヤシとニラ入り汁麺)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1464513071595065349

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント10「沏仔麵」
沏仔麵はそれ自体が深い印象を残すことは少ない。この一本はちょうど沏仔麵自身と似て、麵の話に「売麵炎仔」と「鴨肉扁」という二つの店のエピソードと自分が若いころ詩作で文学賞を受賞した思い出を取り合わせることでできている。#味の台湾

これで第一章終わり。序からここまで読むと、著者の文章のリズムも、青春の蹉跌もその後の仕事もあるていど分かってもらえたかなと。

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四臣湯 (スーチェンタン:四種の漢方入り豚モツのスープ)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1465231881658519552
焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント11「四臣湯」
豚モツのスープ、四臣湯は素材のイメージと違いごくあっさりとした食べものだ。配合される漢方についての部分は、原文はそのまま典籍を引用するので「目がちかちかする」のだが、翻訳は原文や訓読をそのまま載せるわけにもいかない。#味の台湾

といって冗長な訳にもできず、いろいろ読んであるていどのところでおさめてみた。この料理が「白黒の味気ない記憶に色彩を加えてくれ」るという一文は、四臣湯がカラーでもモノクロでもあまり変わらないほど地味な見た目なだけに、より効いている。

ところで浅草の豚モツの名店「喜美松」のご主人に、ぜひこの料理をしかるべき店で食べてみてほしい。

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鱔魚麵 (シャンユーミエン:甘酢風味のタウナギ入り汁麺)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1465232389605523461
焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント12「鱔魚麵」
テーマになっている鱔魚(タウナギ)を割くときの小刀が背骨に当たるきり、びいっという音が聞こえてきそうなシャープな一篇。途中にはさまる著者の若いころのエピソードがハードボイルド調でとても気に入っている。#味の台湾

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阿江鱔魚意麵

感想&コメント

文中に出てくる27秒速炒めの老牌鱔魚麺 は、Google Mapを見る限り2019~2020年頃に閉店した模様。 清香鱔魚麺 も同様に見当たりません。
そこでかわりといってはなんですが、炎の舞い上がる調理の様子がよくわかる阿江鱔魚意麵の動画を張り付けておきます。
こちら も店名は出ていませんが、阿江鱔魚意麵の動画で、この方が映像はきれいです。

白湯猪脚 (バイタンジュージアオ:豚足の塩味煮こみ)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1465600314065653762
焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント13「白湯猪脚」
「豚足を塩だけで煮るのはまるで詩を書くようなものだ」なぜなのかはぜひご一読を。色味のないスープ、ゆたかなゼラチン質、その粘りを文章で再現したかのように、著者は豚足の味わいにじっくりせまっていく。#味の台湾

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鹹粥 (シェンジョウ:出汁粥)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1465600657633677321
焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント14「鹹粥」
日本で中国式の粥というと米粒がとろりととろけているが、台湾の鹹粥は米粒が残って感じられる。しかも南と北、魚と肉でそれぞれ作り方が異なるのだという。これは食べていても意識していなかったので、訳しながらなるほどとうなった。#味の台湾

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感想&コメント

Google Mapで確認すると、2017年頃まで澎湖の重慶街1-2の向いに阿嬤鹹粥 が確認できるのですが、その後お店がなくなっています。 ネットでは、その後仁愛路93に移転したと書かれているのですが良く分からず。

緑豆椪 (リュードウポン:緑豆あんの白月餅)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1465961616537653248
焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント15「緑豆椪」
「緑豆あんの白月餅」のような、もうありそうな料理名を考えるのはとても楽しい。この一篇、月餅といえば贈りあいの話になるはずが、自分が誰に贈ったか、誰からもらったかという話が出てこない。こういう「書かれないこと」が気になる。#味の台湾

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感想&コメント

上記のニュース映像の動画でとりあげられているのは、”台北で良く見かける梨記は、聯翔食品という食品大手の手になるもので、分家であるような紛らわしい広告を打っており、社口犂記餅店本店は注意を促す広告を掲載した”という内容で、日本でもよくある「本家」とか「本元」みたいな事がどこの国でもあるのだなぁと。
梨記の名を持つオレンジ色の包装の餅店は沢山あるようですが、本文中にあるように、この店は台中市の神岡區社口に1件だけあり、他に店舗はないとのこと。

蚵仔煎 (オーアージエン:カキのオムレツ)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1465963377931476992
焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント16
文中でもふれられる通り、この料理の理想形は人によって異なる。ただ「よくない」ほうはたぶん共通していて、だるだるにとろみが多くてカキが少なく、全面にべったり甘いたれがかかっているもの。こういうのに出くわしたときの悲しさ。#味の台湾

「蚵仔煎」この食べものについては「オーアージェン」とほぼ100%の割合で閩南語で呼ばれる。カタカナのルビ自体にも批判はあるだろうし、どの食べものを標準語で読み、どの食べものに閩南語を使うのかはさらに難しいところ。#味の台湾

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羊肉爐 (ヤンロウルー:羊肉鍋)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1466316599284015104

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント17「羊肉爐」
この一篇、北京のまごうかたなき「ヒツジ」から始まっているだけに、台湾で「羊肉」と書かれたときには基本的には「ヤギ肉」であるという注はいかにも苦しい。#味の台湾

味覚をゼロに戻すためにも店に米の飯を置いてほしいというのはよく分かるが、左党の方には「飲めばいいのに」と言われるだけかもしれない。

客家小炒 (コージアンアオチャオ:客家封の豚肉とスルメの炒め)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1466317365126131715
焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント18「客家小炒」
豚肉、スルメを主材料として炒め合わせる、客家に由来するこの料理を著者は「何種もの食材が力を合わせて、その塩気、香り、油の表現するところは、文章なら傍点をつけて讃えてやりたいところだ」と書く。古典籍に根差す表現だ。#味の台湾

豚肉と(戻した)スルメの組み合わせは食べたことのない人にはぴんとこないかもしれないがとてもいい。客家小炒はもっと色々な店で食べて、好みの材料の組み合わせを自分で見つけてみたい。

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封肉 (フォンロウ:豚肉の醤油煮こみ)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1466688951784472580
焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント19「封肉」
豚ばら肉の煮こみを官能的に書く。豊満な脂身からくるうまみ、ねっとりした歯ごたえ。「その肉の味、息遣いは挑発に満ちており、こらえきれない激情のようだ」著者の好みはどの程度の柔らかさ、どのくらいの脂の残りかただろうか。#味の台湾

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鹹湯円 (シエンタンユアン:白玉だんごのスープ)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1466691365061152771
焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント20「鹹湯円」
甘いふつうの湯円に対して塩味のこの料理は客家の食べものとしての色合いを持つ。書き出しは結婚前の妻の実家を訪ねたときのエピソードで、笑いをさそうもの。焦桐のユーモアはわざとらしさがないところがいい。#味の台湾

ここまでで第二章が終わり。妻のからむ作品にユーモアのあるものが多いのは、卑小な読みかもしれないが、あるいは妻といういちばん身近な読者を笑わせる意図もあったのではないだろうか。

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三洽水鄉村餐廳

棺材板 (グアンツァイバン:クリームスープ入り揚げパン)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1467335419729694721
焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント21「棺材板」
料理の由来と台湾の文化を結びつけて語る一篇。パンにクリームシチュー様のものを詰めたこの料理について、著者は西洋からの直接の影響をとなえるが、個人的には日本の洋食を経由して台湾で作られたのではないかと疑っている。#味の台湾

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  • [蔣家花蓮創意官財板]

甜不辣 (ティエンプーラー:てんぷらのおでん)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1467336676896743427
焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント22「甜不辣」
個人的な思い出も台湾の文化論も盛りこまれてじつに内容豊富だ。しかし「甜不辣」「天婦羅」「黒輪」は、それぞれ「魚のすり身揚げ」自体と日本の「おでん」由来の素材を煮合わせた料理を両方とも指すことがあるためとてもややこしい。#味の台湾

著者の故郷である高雄では「おでん」という言葉由来の「黒輪」が、静岡の黒はんぺんを思わせる見た目のすり身製品を煮るのではなく炭火であぶって食べる。これも複雑!さらに日本のことについては、すり身揚げを「てんぷら」、素材に衣をつけて揚げるほうの料理を「天ぷら」と表記した。

香川県生まれの父を持つ身としては「てんぷらのおでん」に何の違和感もないのだけど、この言葉はどれくらいの地域の人になじんでいるものだろう。海水浴のあとに海の家で食べた、長方形に整え薄く揚げ色のついた「平天」のおでんの味をよく覚えている。甘めのみそがしょっぱくなった口にやさしかった。

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炸排骨 (パイグーファン:豚肉の衣揚げ)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1468455884368265216
焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント23「炸排骨」
今や日本では鶏肉を使った「台湾ジーパイ」のほうが有名かもしれないが、本書としてはやはり豚肉のこちらを取り上げることになるだろう。「あらゆる炸排骨の店には、ビールも売るようにアドバイスしておきたいところだ」#味の台湾

本山荻舟の名があるので「食物事典」を繰ってみたが、中国語と折り合わないのでしばらく疑問に思っていた。池波正太郎『食卓の情景』の引用部分と見比べて孫引きだと気づいた。ここが重要なところで、じつはこの部分、池波が「油はラードがよい」と書き直しているのだ。

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文中に出てくる長田弘全詩集

紅糟焼肉 (ホンザオシャオロウ:紅こうじ漬け豚肉の衣揚げ)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1468150791240306690
焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント24「紅糟焼肉」
大稲埕周辺を歴史をふまえて掘り下げ、「売麵炎仔」のにぎわいを活写した上で、台湾料理と福州系の福建料理との関係に移る手さばき、水際立っている。一見して無骨な料理だと思うが、著者は「紅をさした美人のよう」という。#味の台湾

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売麺炎仔 (金泉小吃店)

紅蟳米糕 (ホンシュンビーガオ:子持ちガザミのおこわ)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1468151043032760321
焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント25「紅蟳米糕」
紅蟳米糕はタイワンガザミ、はさみも体も丸いふっくらとしたカニをおこわの上にのせて蒸した料理で、カニの大きさとカニみそ、内子が充実していればとてもぜいたくで、そしてとてもよい料理だ。文章も全書中で個人的には五指に入る。#味の台湾

ここで使われているのはいわば「反発」の技法だ。文中では結婚披露の宴会の華やかさや花嫁の美しさではなく、身の置き所がなく、紅蟳米糕をひたすら食べていたいという叶わぬ望みが書かれる。食べものの一般的なイメージから導かれる感情と逆の方向に強く反発するというこの技法は著者に独特のものだ。

カニの殻は紅く鮮やかだが、それはしょせん見た目のことでしかない。カニの美味はその内側にある。生活のうまみもまた、華やかな外見の内側、ごく個人的なところにしかないのではないだろうか。

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感想&コメント

上記は若者2人による食レポですが、同じ阿霞飯店のテレビレポートでも、「こちらの動画 」は落ち着いた真面目な内容になっています。

爆肉 (バオロウ:豚肉の細切り衣揚げ)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1468456156201103361
焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント26「爆肉」
この作品の冒頭、そして最後までつながる著者の感情はひどく分かりにくい。しかし、この前の「紅蟳米糕」と同様の、その食べものの一般的なイメージへの「反発」を使うと分かってくる。#味の台湾

爆肉は今となってはありきたりな小吃ともいえるが、もともとは料亭料理として出されたもので、社交や一族の会食にまつわるものだ。焦桐にとっては大家族の行き来や、仕事の接待や付き合いは自分が距離を置きたいものとして捉えられている。美味にまつわる記憶と感情は決して甘いばかりではない。

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烏魚子 (ウーユーズー:からすみ)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1468716925463445504
焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント27「烏魚子」
からすみの製法は日本統治時代に伝えられたが、その前からボラ自体は名産として台湾に赴任した役人によって詩に詠まれていた。個人的な体験や蒸留酒との組み合わせの良さも語られ、からすみのように中身の詰まった一篇。#味の台湾

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台湾珈琲 (台湾コーヒー)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1468717274182090752
焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント28「台湾珈琲」
編集の過程で加えられたため、じつはこれが最後に訳した作品だ。台湾がコーヒーの産地であること自体も、最近まであまり知られていなかったのではないだろうか。それが近年上質の豆を作るようになって、評価が上がり始めた。#味の台湾

すべてのコーヒーがそうであるように、台湾産のコーヒー「だから」おいしいわけではない。食べもののエッセイ「だから」おもしろいわけではないのと同じことだろう。「まるで仲のよい友人と膝をまじえて話しているよう」という部分は記憶に残る。二篇の現代詩の引用も含めて、入れてよかった一篇だ。

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感想&コメント

文中で紹介されているオーナーの余芳霞さんや、スペシャリティ―コーヒーの母「エルナ・カヌッセン」も動画中に出てきます。
日本統治時代にコーヒー栽培が伝えられ、一時は衰退したものの、日本の一村一品運動に倣った「一郷一品」で復興したという歴史も不思議な縁です。

小籠包 (シアオロンパオ:スープ入り小肉饅頭)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1469146099617177604
焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント29「小籠包」
第四章の冒頭は小籠包を置いた。ここまで読んであの台湾で有名な小籠包はいったい台湾の歴史のどこにあたるのか、と期待を持って下さった方もいるのでは。それが国共内戦後に持ちこまれたこと、ルーツとしての上海についても触れられる。#味の台湾

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感想&コメント

文中の後半に出てくる鼎泰豐は日本にもかなり昔から進出し、今では20店舗以上あります。私は大阪梅田の阪急デパート上のレストラン街にある鼎泰豐がお気に入りです。點水樓もつい最近になって新宿や四谷にお店を出しはじめました。

臭豆腐 (チョウドウフ:発酵豆腐)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1469146351178899458
焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント30「臭豆腐」
こちらも日本人に有名な「臭豆腐」。冒頭と最後に薬味代わりに個人的なエピソードが三本も挟まれる。「臭」と「脆」は揚げた臭豆腐のにおいと歯ざわりをそれぞれ表すが、文中では中国語ならではのダブルミーニングが使われている。#味の台湾

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川味紅焼牛肉麵 (チュアンウェイホンシャオニュウロウミエン:四川風牛肉煮こみ汁麺)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1470311665917116420

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント31「川味紅焼牛肉麵」
牛肉麵がどのように広まったのか、そして現在の台湾の人々にとってどのようなものかについての考察は著者独自のものといえる。牛肉麵はすでに「集合的記憶とわれわれ個人の感情とを呼び起こす」食べものになっているのだと。#味の台湾

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永和豆漿 (ヨンホードウジアン:永和豆乳)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1470312354021842947

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント32「永和豆漿」
第四章の前半は1949年以降の台湾における食文化の変化が共通したテーマになっている。一杯の豆乳にも歴史と物語がある。著者の大学生時代と結びつく豆乳の記憶、そしてふとこぼれ出る著者の「編集」という仕事への思い。#味の台湾

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米干 (ミーガン:雲南南部風の幅広の米めん:)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1470685496196333568

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント33「米干」
国民党軍が雲南省の少数民族(とくにタイ族)の多い地域に拠していた時期があることから、その地域の人々の一部は台湾に渡り、食文化をも台湾に持ちこんだ。その意味で、「米干」はとても複雑な背景を持った食べものだ。#味の台湾

水挽きした米の薄いペースト状の生地を金属板の上に流し、下から湯煎で火を通す。ぺろりとはがして切り分けると太くてやわらかいうどんのような米めんになる。著者も思い入れがあり、『雲南の味は龍岡にあり』という一冊の本にしているほど。訳者としても雲南・台湾の両方で食べた思い出の料理だ。

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蚵嗲 (オーデー:カキのかき揚げ)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1470685996018995202

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント34「蚵嗲」
ここからは兵役について金門島に派遣されていたころの反抗と煩悶を押さえつけるようにすごしていた日々が語られる。「中から新鮮でうまみのあるカキがぷるんとこぼれ出るのは、まるで封じこめられた青春が躍動してあふれ出したかのようだ」#味の台湾

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猪血湯 (ジューシエタン:豚の血のスープ)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1471253741156265985

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント35「猪血湯」
豚の血を固めたものを切り分けて汁の実とするこの食べものは、東アジアから東南アジアにかけて広くポピュラーなもので、じっさいにはレバーよりも風味はおだやかなくらいだ。#味の台湾

しかし、この一篇では「血」のイメージが拡大され、著者の兵役時代の金門島での危険なエピソードが語られる。それこそ血を吐くような切実さは、食べものを書くということは「生」を書くことだし、生は死と薄皮一枚しか隔てられていないのだ、と突きつけてくるようだ。

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感想&コメント

Google Street Viewの古い映像を見てみると、このお店の看板が何度か変わっているのがわかる。一番古い2009年版では文中にある通り「猪屠口昌吉街猪血湯専店」となっていたのが、2012年には「猪屠口」という表現が消え「天然紅豆腐猪血湯」となってかわいい豚ちゃんのキャラクターが登場している。2015年には「紅昌吉TM」というトレードマークが創作され現在に至っている。

「血」という文字もそうだけど、「猪屠口」という語感もまた、兵役時代の思い出につながるのだろう。

貢糖 (ゴンタン:ピーナッツのプラリネ)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1471257512296939522

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント36「貢糖」
アメは中国では慶事、ことに婚礼の象徴だ。新たな門出を迎えた二人の生活が甘いものでありますようにと。ところが作中では冒頭から失恋が語られ、貢糖は「容易に砕けてしまい、砕けてからも後をひく」とあたかも失恋の象徴のようにされる。#味の台湾

これも著者の持つ技法のひとつで、食べものに付与された一般的なイメージに反発し、新たな象徴を付け加えたものだといえるだろう。

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仏跳牆 (フォーティアオチアン:さまざまな幹部津門肉類の蒸しスープ)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1472483906029240321

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント37「仏跳牆」
第5章はこの「究極のスープ」から始まる。仏跳牆の定義は難しく、そのうえどこの料理かという議論になれば広東、香港と福州、台湾はいずれも譲らないだろう。著者は妻の親戚のもとにこの料理を作って持って行っていたという。#味の台湾

最近見た動画でも料理人が年配の親戚に食べさせていたが、たしかに若い人に向けた料理ではないのだろう。

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麻油鶏 (マーヨウジー:米酒とごま油風味の鶏肉の煮こみ)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1472484894408605697

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント38「麻油鶏」
ゴマ油と生姜、米酒を入れて塩だけで調味して煮こむこの料理を、著者は「台湾の味、故郷の味」といい、「麻油鶏には、肉親のような温かみがある」ともいう。#味の台湾

ところが著者は自分が作り、産後の妻に食べさせたエピソードを披露しつつも、自分の幼いころの思い出に結びつけたことはかかない。それどころか「母の味」というしばしば書く対象にされるものが、著者の作品にはほぼ登場しない。この本にはこうした「書かれていないこと」も考えさせられてしまう。

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感想&コメント

動画には、文中に出てくる「環記麻油雞」「阿男麻油雞」「順園麻油雞」が出てきます。「施家麻油腰花」もたぶん文中の「施家麻油雞」のことだと思われます。

牛舌餅 (ニウショーピン:牛の舌型クラッカー)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1472918828279799815

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント39「牛舌餅」
下の娘、双双の誕生と、人間が人生ではじめに好むようになる「甘さ」を合わせた一篇で、その食べものの象徴を延伸する技法によるもの。まさに牛舌餅そのもののような素朴で飾り気のない甘みのある作品になっている。#味の台湾

ところで最後の一文は菓子を焼くのも、茶葉やコーヒー豆に火を入れるのもすべて中国語で「烘焙」であることによっているので、翻訳では逆に三つを「焼く」「焙じる」「焙煎する」と訳し分けている。

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感想&コメント

鹿港の牛舌餅は、動画で見る限り、厚みがあり、うなぎパイのような大きさ&形状をしています。動画の中では4時間待ち等のコメントもあり、本当に入手困難なようです。
宜蘭の超薄い牛舌餅は、どうも2000年頃に考案されたもののようです。そしてネットで調べると、宜蘭餅發明館という立派な観光施設があるようです。こちらの方がプロモーションも上手で情報も多いです。
宜蘭の牛舌餅の薄さを見るにはこちらの動画 がわかりやすいです。

魚丸湯 (ユーワンタン:魚つみれのスープ)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1472923984643891200

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント40「魚丸湯」
この素朴な魚肉団子のスープが主題の作品でも、下の娘双双の幼いころのエピソードが書かれる。著者の故郷である高雄に行ったさい、抱っこされたまま初めて船に乗った幼い子の笑顔と、軽いけれどもずっしりとした重みがありありと浮かぶ。#味の台湾

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阿給(アーゲイ:油揚げの春雨詰め)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1473655985567051777

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント41「阿給」
雨の中、下の娘双双と著者の淡水への小旅行を中心に進められる一篇。この料理は淡水名物の油揚げに春雨をつめて煮たものだが、作品自体にも淡水の歴史、阿給が生まれてからの台湾の歴史、著者個人の歴史がたっぷりとつめこまれている。#味の台湾

感想&コメント

アーゲイは、日本語の「揚げ」から来た言葉だという。ここにも日本統治の名残がある。

鴨賞(ヤーシャン:アヒルの燻製)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1473656608177930240

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント42「鴨賞」

鴨賞はまさに「アヒルの開き」とでも呼びたい姿をしている。「生活することの喜びは、一口鴨賞を噛みしめたときと似ている。」そんな五味そろう味わいにするには、切り分けて葉ニンニクとレモン、ゴマ油で和えるのがコツらしい。#味の台湾

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米篩目(ビーターバッ:押し出し米めん)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1475475057078337537

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント43「米篩目」

友人との楽しい思い出と、肉親にまつわる心おどらない思いが両方とも書きこまれ、この見たところ何気ない米めんに味わいを添えている。その上、東南アジアに華人が伝えた料理とも接続するのだから内容は盛りだくさんだ。#味の台湾

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感想&コメント

基本的にガチョウ(鵝肉)の有名なお店で、その紹介が中心ですが、3分50秒くらいから、すこしだけ米苔目が登場します。

排骨湯(パイグータン:豚スペアリブのスープ)

(Twitter上でここだけコメントが飛ばされている。多分訳者のアップ忘れ)

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茶葉蛋(チャーイエダン:茶葉と香辛料で煮こんだ玉子)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1479277423435075587

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント45「茶葉蛋」
「人生とはやはり茶葉蛋のようなものだ。ときに傷跡や欠損があり、茶葉を煮こんだように、かすかに苦みがある。苦みの中に甘さがあり、渋みの中に楽しみがある。」#味の台湾

卵というのはありふれた食べものだ。しかし改めて考えれば、卵は誕生の象徴であり、だからこそ他の命を奪って生きる、という「食べる」という行為の本質に非常に近いものでもある。この一篇はどこにでも見られる茶葉蛋から、人生そのものにまで説き及ぶ。

『味の台湾』は順序にかならずしもこだわらず、気ままに読んでほしいけれど、「茶葉蛋」はできるなら20篇以上は読み終えた後に開いてほしい。

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感想&コメント

金盆阿嬤は、日月潭という風光明媚な観光地にあるゆで卵のお店のようです。箱根大涌谷の「くろたまご」を想い出しました。

文山包種茶(ウェンシャンバオジョンチャー)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1479370974046863361

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント46「文山包種茶」

文山包種茶はその香り高さや青く淡い味から、人でいえば若い時期に喩えるのがふさわしいと考えたのだろう。著者は妻の若かりしころの印象をこの茶に託す。#味の台湾

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感想&コメント

写真をスライドで紹介しているだけの動画ですが、冒頭、文中に出てくる文山包種茶と木柵鉄観音が一つの写真の中におさまって出てきます。

焼酒螺(シャオジウルオ:ウミニナのスパイス炒め)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1479430114110754825

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント47「焼酒螺」

「阿給」と同じく淡水が舞台となり、またも天気は雨だ。その後ぽつぽつと短いエピソードが重ねられる様子は、焼酒螺を袋から一つひとつ出して吸うときのようだ。そしてその「物足りなさ」から、再び妻との思い出に吸い寄せられていく。#味の台湾

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貢丸湯(ゴンワンタン:肉つみれのスープ)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1479460314550706182

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント48「貢丸湯」

驚くほどの歯ごたえを持つ肉だんご「貢丸」はビーフンと並ぶ新竹の名産だ。著者焦桐は新聞社で働いていた経験を持つが、その仕事を離れるさいのエピソードが語られる。ご存じ周星馳『食神』の一場面も(名前を出さないまま)引用される。#味の台湾

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感想&コメント

海瑞摃丸では年間3000万個の貢丸を製造しているそうです。異物をチェックするためにX線も導入しているとのこと。

桜桃鴨(インタオヤー:チェリバレー種アヒル)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1479467359215575040

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント49「桜桃鴨」

妻との食事の実景の描写に、作家梁実秋の北京ダックに関する文章を引用して一篇を成立させている。個人的に著者の引用のしかたが好きだ。この本にこうある、ああある、と目移りしすぎず、引用元の詩や文の味わいが伝わるようにしてある。#味の台湾

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感想&コメント

シルクプレイスホテルは「蘭城晶英酒店」といい、宜蘭市中心部の高級ラグジュアリーホテルのようです。

豆花(ドウホア:おぼろ豆腐)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1479469121276239878

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント50「豆花」

「よい豆花は、純粋で清潔な感じがするものだ。」甘くやわらかなこの食べものをほんとうにおいしく作るなら誠実さが欠かせない。そして豆花はじつにはかない食べもので、作品にもそのはかなさが生かされている。#味の台湾

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鳳梨苦瓜鶏(フォニークーグアジー:発酵パイナップルとニガウリ、鶏肉のスープ)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1479829998542344192

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント51「鳳梨苦瓜鶏」

作者はこのニガウリと鶏肉に発酵パイナップルを合わせたスープを「古い友人と一緒に味わうのに向いている」という。末尾には人名が並ぶが、あえてそれらが誰なのか注しなかった。この一品を分け合うに足る人だと知れればそれでいい。#味の台湾

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生炒花枝(ションチャオホアジー:コウイカの甘酢風味炒め)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1479831509351780354

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント52「生炒花枝」

最高の書き出しで、作る様子こそ派手だがどこかチープなイカ料理に、著者の青春時代の鬱屈とその発散が象徴される。食べものと人生が交錯する瞬間を捉える巧みさが味わえる。#味の台湾

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感想&コメント

15分20秒くらいから始まる調理が生炒花枝だと思うのだけどよくわかりません。忠誠號の名物は16番目に紹介されている蚵仔煎です。
ネットで見る限り「生炒花枝羹」と最後にスープを意味する「羹」がついている場合の方が多い感じです。 「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」でおなじみの「羹」です。

菜脯蛋(ツァイプーダン:干し大根のオムレツ)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1479833018558816263

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント53「菜脯蛋」

「毎日一度飯を炊き、干し大根を入れて卵を焼く。」仕事を辞め、禁欲の日々を送るときに毎日作ろうと決めただけあって、この料理はすっかり著者の手になじんでいる。店による差から客家との関連に進み、最後の美しい一段にたどりつく。#味の台湾

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-欣葉本店

感想&コメント

菜脯蛋は1分45秒くらいに「切り干し大根の玉子焼き」として出てきます。
文中に出てくる杜藩芳格 は、台湾の女流詩人で、客家語で書かれた詩集はおそらく「朝晴」という詩集のことだと思います。橘醤の項で出てくる「選挙の味の取り合わせ」も、同じ詩集と思われます。2016年に89歳で亡くなっているようです。

黒白切(ヘイバイチエ:ゆでた豚のモツと頭肉)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1479834025183170562

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント54「黒白切」

これは豚の端肉や内臓肉をゆでて切りつけただけの料理だ。日本で言えばやきとんやホルモンで、あの小さな愛すべき部位の肉たちは高級店では決して味わえない。著者もいうように、エッセイというジャンルもまた「黒白切」に似ている。#味の台湾

感想&コメント

一定規模以上のレストランでは見かけず、路傍の小さな屋台で見かけるという記述や豚のモツを扱うところから、日本でいうところのホルモン焼の屋台等を想起します。

文中で引用されている金瓶梅 第23回の原文の前後を中國哲學書電子化計劃で参照すると、以下のようになっています。

不一時,來興兒買了酒和豬首,送到廚下。
蕙蓮正在後邊和玉簫在石台基上坐著,撾瓜子耍子哩。
來興兒便叫他:「蕙蓮嫂子,五娘、三娘都上覆你,使我買了酒、豬頭連蹄子,都在廚房裡,教你替他燒熟了,送到前邊六娘房裡去。」
蕙蓮道:「我不得閑,與娘納鞋哩。隨問教那個燒燒兒罷,巴巴坐名兒教我燒?」
來興兒道:「你燒不燒隨你,交與你,我有勾當去。」說著,出去了。
玉簫道:「你且丟下,替他燒燒罷。你曉的五娘嘴頭子,又惹的聲聲氣氣的。」
蕙蓮笑道:「五娘怎麼就知道我會燒豬頭,栽派與我!」
於是起到大廚竈里,舀了一鍋水,把那豬首蹄子剃刷乾凈,只用的一根長柴禾安在竈內,用一大碗油醬,並茴香大料,拌的停當,上下錫古子扣定。
那消一個時辰,把個豬頭燒的皮脫肉化,香噴噴五味俱全。

將大冰盤盛了,連薑蒜碟兒,用方盒拿到前邊李瓶兒房裡,旋打開金華酒來。
玉樓揀齊整的,留下一大盤子,並一壺金華酒,使丫頭送到上房裡,與月娘吃。
其餘三人坐定,斟酒共酌。

冬瓜茶(ドングアチャー:トウガン茶)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1482846374517297155

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント55「冬瓜茶」

「私は時おり世界と相容れないように思うことさえある」、「そんな時、私はしばしば一杯の冬瓜茶を渇望する」。著者が抱く、救われるような思いが語られる。それはこの飲みものが薄甘く、酒や茶のような刺激がないからこそなのだろう。#味の台湾

感想&コメント

文中に出てくる宋代の詩人、鄭安曉の「詠冬瓜」の原文は、「古今図書集成」の中に掲載されているようで、中国語のWiki Sourceに掲載されています。

剪剪黃花秋復春
霜皮露葉護長身
生來籠統君莫笑
腹内能容數百人

書き下し文にするとこうかな。

黃花剪剪として、秋復た春
霜皮露葉長身を護る
生來籠統、君笑うこと莫れ
腹内に容れ能うこと數百人

籠統は、曖昧模糊や大雑把な様を示します。

文中に出てくる林纘の冬瓜の七言絶句は、國立台灣文學館の愛詩網によると「礪心齋詩集」に採録されており、原文は以下の通り。

大勝匏瓠味淡馨
羹湯暑熱藥同靈
洞房記取仙姫贈
酥潤冰條試臘瓶

洞房ときて仙姫が出てくると、中国の古代の賢帝堯王が鹿仙女に恋した話を想起します。
日本語訳もまた味わい深いのですが、短いので本に原文も載せてくれたらいいのにと思ったり。

書き下し文にするとこうなるのなぁ。

匏瓠の味淡く馨ること大いに勝り
羹湯は暑熱に靈きこと藥と同じ
洞房、仙姫より贈るを記取し
酥潤冰條、臘瓶を試す

酥潤は滋潤と同じ意味で潤うことを意味しますが、酥(そ)は牛乳や山羊の乳を煮詰めたものなので、ミルク状の潤ったものとなる。
冰條はふつうはアイスキャンデーを意味しますが、ここでは冬瓜條や冬瓜糖を意味するようです。

その他、本文には本草綱目の記載なども出てくるが、こちらのコラムにも詳しい。

橘醤(ジュージアン:キンカンソース)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1484005262071635971

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント56「橘醬」

台湾の中でも客家の味とされる「橘醬」は、在来のキンカンに似た小さな柑橘をつぶして煮たてたもので、料理の薬味に使う。この一篇は末尾がとてもよいのだが、さすがに今ここに引用してしまうのはしのびない。本を開いて読んでほしい。#味の台湾

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感想&コメント

橘醬と酸桔醬では意味しているものが違うかもしれませんが…。
Amazonや楽天を見ても、橘醬では商品にヒットしない。またYoutubeでは、桔醬というキーワードではいくつか制作過程の動画がヒットするが、商品はヒットしない。これはいずれ意外と隠れた輸出産品になるのでは?
あと、原材料も難しい。金柑は金橘とも言うし、酸橘は日本ではスダチになってしまいますが、台湾固有種はもう少し違うのでしょうか。ほかにも、四季橘(しききつ、カラマンシー)も使われているらしいです。

麺線(ミエンシエン:そうめん)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1484103412446687232

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント57「麵線」

金門島の名産でもあり、兵役の思い出から始まる。「私は食べる前に毎回かならず自分に言い聞かせる。『今回こそはゆっくりだ、やけどに注意だぞ。』だがけっきょく毎回口をやけどしてしまう」麵線の熱さと香りまでもが伝わってくるようだ。#味の台湾

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感想&コメント

麺線は、一見、三輪そうめんや揖保乃糸の製造風景に似ていて、これも日本統治時代に台湾に製法が伝わったものなのかと思いますが、製造工程はかなり違うみたいです。
金門では文中で触れているおうに、牡蠣を入れた金門麺線が有名なようです。

あと「紀家」は「紀家豬脚原汁專家」というお店の事ではないかと。ここは豬脚原汁がメインで、この動画でも麺線は一瞬出てくるだけです。

葱抓餅(ツォンジュアビン:叩いてふわふわにしたネギ入りパイ)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1484156256755593217

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント58「葱抓餅」

しばしば「天津」の地名が冠せられるこの小吃を、著者は「それは異郷で作り出した、想像の中の故郷の味なのだろう」と喝破する。故郷を失い、台湾に身を寄せた人々は、食べものにその故郷を託すことがしばしばあったのだと。#味の台湾

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感想&コメント

驥園は、本文にあるように鶏の土鍋スープが有名なようで、「驥園川菜餐庁」で検索すると鶏スープの動画がいくつか見つかります。

枝仔氷(ジーアービン:アイスキャンディー)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1484167579954413569

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント59「枝仔氷」

何の変哲もないアイスキャンディーだが、この一篇は清代の台湾における氷売りを詠んだ詩から始め、近代の製糖産業についてもふれることで、個人の記憶だけでなく台湾の歴史にも接続させている。詩の引用がある作品にはいいものが多い。#味の台湾

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感想&コメント

彰化の王功にある泉芳枝仔冰は、蚵嗲の項で紹介した巷仔内のすぐ近くにあります。

文中で、二坪冰店を名乗る店が近隣にできていると書いてありますが、Googme Mapsで見ると近くに二坪大觀冰店というのがあり、それなりに高評価のお店のようです。

刈包(クアパウ:豚肉の醤油煮こみをはさんだ蒸しパン)

https://twitter.com/chuanweikoji/status/1484177646367870991

焦桐『味の台湾』収録全作訳者コメント60「刈包」

刈包を一つぱくつくためにひと時立ち止まり、また歩き出す、人生の中の一瞬。川に流れる水が書かれ、人生の有為転変に喩えられている。水は雨から川となり海に注ぎ、また天に帰る。本書も何度も読み返してほしいとこの一篇を最後に置いた。#味の台湾

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BaoHausは、長らくニューヨークとロサンゼルスで営業していたようですが、2021年9月頃にWebサイトが消え、GoogleMapsで見ても「閉業」となっています。コロナの影響を受けたのでしょうか。ところでなぜかブエノスアイレスに同じBaoHausという台湾料理店が出店していて刈包を提供しているのを見つけました。ロゴなど全然違うので、まったく関係ないお店でしょう。

藍家の割包のメニュー構成は面白いです。 肉の脂分が多い順に、肥肉 - 綜合偏肥 - 綜合半肥半痩 - 綜合偏痩 - 痩肉 となっています。日本のこだわりラーメン店で背脂の量を選ぶのに似ています。

これも読んでおきたい

味の台湾と共に企画され、同じ翻訳者、編集者で装丁も似ています。味の台湾が楽しめた人には絶対お薦めの一冊です。

中国くいしんぼう辞典(崔岱遠・李楊樺 著、川浩二 訳)

        

あと翻訳者の川 浩二さんが刊行記念のトークイベントでお薦めしていた本もリストしておきます。

『浮生六記』(沈復著、松枝茂夫訳、岩波文庫)

『中華飲酒詩選』(青木正児、東洋文庫)

『安閑園の食卓 私の台南物語』(辛永清、集英社文庫)

『世界屠畜紀行』(内沢旬子、角川文庫)

『きょうの肴なに食べよう?』(クォン・ヨソン著、丁海玉訳、角川書店)


  • 公開日:  2021/12/10
  • 最終更新日:2022/1/09
  • 投稿者:  太田垣