1890年(明治23年)の東京大百科『東京百事便』
1890年(明治23年)7月8日に「東京百事便」という本が出版されています。
この本は、東京のことならなんでも載っている便利帳という感じの本です。 この中に「革鞄店」というカテゴリーに12店舗が掲載されています。
紀の國屋 京橋區南傳馬町二丁目十六番地
谷澤商店 仝區銀坐一丁目四番地
林商店 仝區銀坐ニ丁目六番地
薄井福三郎 仝區銀坐ニ丁目六番地
櫻組出張店 京橋區銀坐三丁目十六番地
川上屋 日本橋區通四丁目
池永榮藏 京橋區尾張町一丁目二番地
濱田商店 京橋區出雲町五番地
越後屋 京橋區南金六町七番地
松田屋 芝區源助町二十番地
桐屋 神田區雉子町三十三番地
村上勇雄 神田區連雀町十八番地
実は、東京日日新聞に掲載された広告がまたすごいです。 テキストは国文研の「明治期出版広告データベース」から引用します。
東京百事便を買ふ人ハ
金の有る人○交際家○才子○執筆者○演説者○発明の相談相手をさかしたい人○名高き人を喚ひたい人○東京の事を問われて荅出来ない事なき様になりたい人○世の中を楽しく送りたい人○面白ひ遊びを為したき人○美人を嫁りたい人○風流を学なびたい人○商売を考へたい人○殖産工業を起したい人○閑居無聊に困む人○地方に居て東京に注文物など為したき人○地方に居て座なから東京の様子を知りたい人○地方より出京した人○地方へ往く土産を買たい人○以上ハほんの大略にて其他目録に縁ある人々ハ常に坐右に備へて百事に便を得玉へ
東京で
土地の最も高き所ハ四谷東信濃町辺にして百十五尺同低き所ハ本所吉田町吉岡町原庭表町辺及深川霊岸町辺にして五六尺なり○隅田川の最も深き所ハ上流綾瀬川と合流の所中洲辺にして二十三尺○土用の丑の日に休む鰻屋ハ霊岸橋畔大黒屋○算盤の大なるハ室町の大算盤○侠客の慈善家ハ新場の小安○商人で馬車に乗りいつでも葉巻煙草をくわい居るハ岩谷国益の親玉○橋の美大なるものハ吾妻橋○大なるものを小にして売るハ日本橋の鯨組○無くて有名のものハ業平蜆と深川万年橋の大鯡鯉○山門の大なるものハ芝増上寺○仏像の大なるものはハ上野の大仏○小さくて大なる家に居る者ハ浅草観音○石磴の高きハ愛宕の男坂○巨鐘ハ増上寺(一撞の余音人行一里間滅せずと)○悽ひ穴ハ日暮里太田道灌船繋松の下○風景の好き穴ハ芝山内巌谷の弁天松蓮社境内○店の字附く町ハ十軒店釘店藁店生藁店植木店玄治店溝店にて猶ほ裏店ハ町々にあり戸棚ハ家毎に二ツ三ツあり○赤洋服の者ハ万世橋の靴屋村上○赤羽織で推し歩るくハ谷斉坊さん○梯子なしで高い柱を容易に登るものハ電灯会社の人夫○料理屋で最も高い場所ハ愛宕館の二階にて最も低ひ所ハ王子扇やの穴坐敷○居留外国人中最多数なるハ米国人○新聞の最も古きものハ日々新聞○七十五銭の理髪所ハ常盤橋外の赤煉瓦荘司○藤八拳指南所ハ湯嶋天神町三丁目群笑舎頑固扇発売者ハ榊原剣客○一万以上の饅頭を容易に製するハ岡埜屋○一万以上の弁当を容易に仕出すハ安針町の弁松○目の大なるハ成田屋○鼻の大なるハ円遊○桜の大木ハ日暮里日蓮宗〓王寺内○大見世物ハ浅草のパノラマ
広告 東京百事便
定価金九十五銭別に附録金十二銭○郵税合して金十銭為替払込所下谷郵便局郵券代用一割増
東京百事便編輯始末略記及目次
宇内万国の人与すに東洋第一の文明都会を以てするものハ我大日本帝国の首府なる東京市にあらずや而して此一市中に包含する有形無形の事物ハ実に千万無量にして鬼神にあらざるよりハ記臆し難きハ勿論用に臨んて之れを知らんと欲するも其端緒を得るに由なく事に当りて之れを索めんとするも其道なきに苦しむ所なり世上往々都会一部分の事を知るへき書冊を発行するものなきにあらす其標題を見其目次を読めハ有益利便の書なるか如と雖之を購求繙閲するに調査の不完全事実の疎漏なる読者をして大に予想を空ふせしむるもの甚多し且つ其一枚摺番附様のものゝ如きに至りてハ無稽杜撰に驚かざるもの殆んと稀なり夫れ一部分の事物を調査したるものにして猶且然り況んや万般の事を網羅し精竅の事実を挙けたるものゝ如きに至りてハ未た決して之れ有らさる所なり弊房爰に憾あり本年一月上浣房友相議し凡そ東京市中に在りて存するものハ事の雅俗物の文野に拘ハらす網羅蒐集して之を発刊することを約し爾来十数名の助手を派し万般の事物を各其専門家に就て質問筆記し或ハ郵書を発して事実を探究し或ハ右老に就き現場に至る等日夜拮据黽勉〓れか探究調査を怠らさりしと雖事実の精竅を得ること極めて難く六月下浣即ち半歳の久しきを閲して漸く稿を脱し終に目次三百五十余種字数三十万余の一大著書を発刊するを得たり蓋し此書編ある所一事一物と雖決して無用あらざるべし江湖の諸彦若し一部を坐右に置き随時之れを繙かハ其便益蓋し尠少ならさらん即ち其目次の大要を示す事左の如し
地理(四百三十四年前江戸古図挿入)。沿革。郡区区劃。面積及広袤。土地の高低河海の深浅(各区各町の高低)。戸数。家屋構造の種類。人口。郡区坪数人口の比較。陸軍軍人の数。学校生徒府県別人員(官府私立学校共)。居留外国人(各国男女の数)。諸官衙及兵営の位置。郵便及電信局の位置。各国公使館の位置。警察署及警察官と人口の比例。貴顕の年齢生国宿所等(最も詳細調)。博士の年齢宿所等。学校及幼稚園(何れも規則教員姓名共)。官立学校。府立学校。私立学校。小学校。幼稚園。病院(入院手数受持医員姓名入院料等)。官立病院。府立病院。私立病院。救済院(総ての救済に関する所の諸規則並に報告) 公園(各公園共沿革其他著名の記事)。神社仏閣(創立年間及境内の勝地等)。名所古跡。名家墓(位置其他明細)。一年中の遊ひ場(何月頃ハ何所に遊へ)。著名の地方道しるべ(温泉其他遊場)。釣案内(何魚ハ何月頃何所にて釣るの類)。観覧場(博物館動物館植物園の類)。上水布設の区。各種の会(規則及会員数及係員姓名) 東京府会議員(住所とも)。東京市会議員(同上)。政党政社(係員姓名住所共)。各新聞(主義主筆編輯員及代価等)。各雑誌(記載の種類其他極細密)。政治、法律、経済。殖産及工商。医学。文学及教育。宗教。雑。銀行(資本役員為替取組先株券数等)。国立銀行。私立銀行。会社(資本役員目的職工数一年収入等)。鉄道会社。水陸運輸。馬車営業。鉱業。機械、器具製造販売。土木、建築。水陸物産。電灯瓦斯及点灯。保険会社。倉庫会社。用達会社。紡績織物メリヤス製造及綿販売所。和洋紙類製造販売。製薬。製氷製粉製糖会社。染物及製藍。製紐製綱製帽。麦酒製造販売。油類製造販売。煉瓦洋瓦製造販売。印刷、製本。書籍販売。製鉄及造船。陶器及硝子製造販売。株式及米商会社。雑貨輸出入及物品販売。牛馬家禽繁殖売買。案内報告探索、身元保証。胞衣埋納及胞衣納器。肥料。諸製造所。擦燧製造所。石鹸製造所。絵具製造所附インキ製造所及コロツフ製造所。白墨製造所。雑。軍艦表(乗組員数艦体質檣数砲門数及製造年。製造所其他明細。代言人(新旧組合及事務所)。公証人(役場其他管轄)。医師(内外科産科歯科精神病家及種痘所)。薬局。建築家。国語家。漢学家。文章家。詩人。歌人。俳諧。川柳。能書家書家画家。日本画(各人得意画及流派)。洋画(各人得意画)。撃剣家(流派等)。柔術家(同上) 馬術家(同上)。競馬用名馬(持主齢馬名産地雑種又ハ純種尺等)。速記者。狂言作者。茶道(各流派共)生花各流派等)附諸流の挿花々屋。囲碁家。将棋家。書画鑑定家。刀剣鑑定家。古銭珍蔵家。養鶏場。雅俗の音曲及。諸芸(各楽曲の起源由来及現時の名人住所並各名人愛玩楽器の名製造年月日及其伝来等)。雅楽。洋楽。能楽附野呂松人形遣師。琵琶。八雲琴。一絃、二絃、七絃琴。竹琴。琴三絃胡弓。尺八。清楽。三弦長唄鳴物。義太夫節。劇場浄瑠璃。都節。河東節。新内節。富士松浄瑠璃。常磐津。片沢節。清元節 歌沢節。歌沢節。手〓(各流派共。講談(各人の得意等)。落語(同上)。名工(各工の得意流派及現時名人の住所等明細)。木彫刻。竹彫刻。金属彫刻 象牙彫刻。布目象眼。芝山象眼。鎚金。像型。鍍金。蒔画。塗師。陶器画。篆刻工。石工。印刻。護謨印刻。木版彫。看板彫。銅版。石版。活版。写真。紙型人骨並解部体雛形製造販売。表具師。繍工。造花工。鋳職。指物師。専売特許(願出年月番号品目願人姓名住所等)。製造業組合(組合種類事務所頭取組合人員数等)。営業組合(同上)。魚鳥市場(位置頭取等)。青物市場(同上)。古着市場(同上)。米穀市場(同上)。諸鳥糴売市場(同上)。屠牛場(屠牛の統計内各獣数屠牛場)。火葬場(各火葬場位置構造の一般及火葬統計)。巡査派出々願手続。楽師楽隊派出願手続。市中音楽招聘。貸物(位置貸料貸品の種類)。貸馬車。借馬。貸自転車。貸電灯 貸旗貸提灯。貸本。貸服並に貸婚具。貸道具。貸葬具。質店。公債証書株券取扱抵当貸附両替古金銀売買店。諸相談並に周旋所。通信報告社。広告取次並に掲示所。広告取次。広告掲示場。理髪所(東京第一等の理髪所明細案内)。商店(各店営業上最も手広に取扱ふ品目並に名代物等明細)。書舗。筆墨硯商。教育品製造並に販売。絵具染草商。扇商。団扇商。紙商。刀剣商。銃砲並に火薬品。金庫製造並に販売所。書画骨董舗。西洋古道具舗。西洋家具並に室内粧飾品舗。時計商 宝石商。西洋小間物商。釦並洋服裁縫附属品販売店。帽子店。革鞄店。洋灯舗商。医療器械商。幻灯商。和、清、洋楽器製造販売。支那道具。化粧品。袋物商。煙管商。度量衡製作販売。刷毛商。一閑張商。洋服商。呉服商。菓子商。鰹節及浅草海苔商。佃煮并煮豆店。精進揚。西洋食料品舗。植木商。金魚商。花火商。足袋商。下駄商。靴商。勧工場。多数の物類商店等の統計。集会貸席(演説会及談話会等に適する家及坐敷の広さ貸料等)。飲食店(各家の有様名代の料理及料理の種類価挌家娘の技芸及各家意得の事等明細)。日本料理。温泉料理。西洋料理。支那料理(献立書共)。鳥料理。鰻屋。寿司店。蕎麦店。豆腐料理。汁粉店。牛肉店。天麩羅店。茶漬屋。麦とろ。鰌汁、鯨汁。弁当。旅人宿(坪数客取扱等客の種類泊料等明細)。汽船馬車出発時間及賃銭。侠客古侠客の小伝並現時有名の侠客小伝。俳優(各得意の技芸等)。相撲(相撲興行の起因及二十二年より二十三年迄二年間四回大相撲優劣表)。劇場(各座の起因及大小座共位置茶屋等明細)。寄席(各定席)藤八拳指南所。待合並に遊船宿(各家花客の種類等)。貸船附借賃(屋形屋根船並に網船釣船等明細)。追訂之部(六月以降著名の出来事)。
●右目次の外に美麗袖珍本の附録あり題して「いらふの友」と云ふ常に之れを携帯し居る時ハ或る場合に際し著しき奇巧を奏する事あらん併も其目次等ハ茲に掲げずして暫く諸君の一考を煩す
大売捌
通三丁目 丸善
通一丁目 大倉
神田裏神保町 三省堂
呉服町 忠愛社書舗
本郷元富士町 盛春堂
大伝馬町一丁目 大成館
発行所 東京市下谷区北稲荷町四十番地 三三文房
- 公開日 2021-02-11
- 最終更新日 2021-02-11
- 投稿者 太田垣