1879年(明治12年)京都博覧会出展の鞄

1871年(明治4年)、日本で初めての博覧会が京都で開催されました。第一回の場所は西本願寺。その後、京都市勧業館などで開催されるようになりました。

初回の京都博覧会に関する資料は見つかりませんが、明治10年の博覧会資料 の中に1件だけ「カハン」という記載が確認できました。

1879年(明治12年)の京都博覧会の出品目録になると、「提嚢」「胴乱」の出品に加え「カバン」が沢山増えています。

まずは、下記のような記載です。町名も書かれているのですが判読できません。

裂巾カバン蝙蝠傘  其他数種百本 出典 京都博覧会出品目録 上巻

カバンではなくカパンかもしれません。出品者は「下京区 十九組鹽竈町 高橋九兵衛」となっており。現在も、五条高倉のあたりが、下京区塩竈町として残っています。

小箪笥 燭色蒔絵松竹梅鶴亀鍍金金具附
  文庫 同上四君子割蓋他数種○壇紙張青漆髹蒔絵飛鶴他数種○同上溜髹蒔絵牡丹孔雀他数種 盃 懐中用蒔絵 弁当 紅溜 櫛箱 黒髹 琴爪箱 青漆髹沈金 硯箱 黒髹皆具添 筆筒○書状箱○カバン 唐革模 小文庫 数十種 上京区廿五組俵屋町 三宅良助 出典 京都博覧会出品目録 上巻

この例では、様々な小箱を製造する業者が「カバン」を製造しているようです。

次に、下記のような記載もみられます。

花簪 絹カバン蝙蝠傘其の外数種三本 同 組早尾町 出典 京都博覧会出品目録 上巻

簪(かんざし)を作っているお店がこうもり傘などと並んで絹製のカバンを作っています。恐らくは和装バッグのようなものなのでしょう。早尾町は、鴨川の五条大橋を少し南に下ったあたりの町です。

提嚢 綴錦有職紋入紅絹紐流蘇附日比野千鶴岸本千賀製
カバン 天鵝絨底金有職紋入真鍮金具信濃小路章製
出典 京都博覧会出品目録 上巻

提嚢は、綴錦という有職紋が入っている織物で作られ、赤い絹紐で彩られた流蘇(りゅうそ:絹糸を束ねて作った房飾り)が付いているとしています。作成者が日比野千鶴・岸本千賀となっているので、女性が制作したもののようです。

また、カバンの方に見える、天鵝絨とは、「てんがじゅう」と読み、ビロードのことです。底金とあるので、床面に接する部分に金具でも取り付けられていたのでしょうか。そしてこちらもビロードに有職紋が入り、真鍮の金具が取り付けられていたようです。

いずれも皮革せいではなく、布製の作品に、提嚢やカバンという言葉が与えられています。

次は、すこし変化球です。

臥榻 籐細工三種 カバン 同上 下京区十三組京極町 出典 京都博覧会出品目録 上巻

臥榻は、「がとう」と読み、ベッドにもなる腰掛けのことを言います。 今で言うところの、ソファーベッドのようなものでしょう。籐細工の技術を生かしてカバンを製造していたようです。

こちらの「提籃」や「カバン」は、バッグというよりバスケットの部類のようです。

提籃 竹製煎茶用三個 同組 泉正寺町 西村藤右衛門
提籃 籐組三種 炭斗 同上二種  同 十三組恵美須ノ町 永田宗七
カバン 文庫仕立春慶髹 七個 ◯同上深形十個 ◯同上浅形十個 上京区廿四組西方寺町 川島吉之助
カバン 骨柳細工黒竹緑九個 下京区四組槌屋町 進藤竹次郎
カバン 骨柳細工 大小二個 行厨 同上八個 同六組中島町 近藤熊次郎
(中略)
カバン 骨柳細工三種 行厨 同上套子其他 同組石橋町 速水吉兵衛
(中略)
カバン 籐組大型五種 ○同上橢円形数個 炮烙笠 竹製 同 七組三丁目 松村佐兵衛
(中略)
カバン 籐組男持女持等三種 同 十三組八文字町 迹見勝三
カバン 籐組廿八種及流蘇十條添  同 廿組山田町 太田友次郎
カバン 籐組極小形提下神符入等ニ持ユ三種七十一個 手籃 同上菓子入等ニ持ユ七種八十個  畚 同上用十八個 伏見区二組釘隠町 山中宗助
出典 京都博覧会出品目録 上巻

いずれも籐や骨柳を使った細工物です。 行厨は、「こうちゅう」と読み、弁当のこと、炭斗は、「すみとり」と読み、茶道具の一種で茶の湯のために使う炭を、入れておく小さなカゴの事です。また、春慶髹とは、うるし塗りの手法の一つです。

畚は「もっこ」や「ふご」と読み、要は菓子やランチに使うバスケットのこと。迹見は、「とみ」と読み、古くから存在している苗字のようです。

胴乱 黒革 雑品 、巻烟草数種其外二百十七種 上京区丗組上本能寺前町 森 新次郎
胴乱 数種 雑品 カバン等六種 同 組妙万寺町 高木仁兵衛
胴乱 二個 雑品 靴下等三種 下京区 十八組中野之町 藤井彦次郎
帽  和製数種 雑品 象皮カバン数種其他百二種 同 五組中野之町 西村長兵衛 出典 京都博覧会出品目録 上巻

ここでは、帽子を製造している業者が象皮カバンを出品していることが確認できます。

最後に、締め切りギリギリに届いた情報が巻末に補遺されていて、脇坂房三という人が出品しています。

カバン 大中小三種 百五十箇○三套子 ニ十組 下京区六組中之町 脇坂房三
出典 京都博覧会出品目録 上巻

絹毬 三種 カバン 手遊ニ套子貳 下京区六組中之町 脇坂房三
出典 京都博覧会出品目録 上巻

ということで、明治12年という割と古い年代にもかかわらず、「カバン」が数多く記載されています。


  • 公開日 2024-07-27
  • 最終更新日 2024-07-27
  • 投稿者 太田垣