大阪関西万博の中国パビリオンは、特徴的な外観に沢山の漢文が書かれていますが、
中に入っても沢山の漢文であふれています。パビリオンを入ってすぐ、観客の目を奪うのは、大きな円盤に映し出される二十四節気などの映像ですが、その隣で、天井近くから床面に向かって
プロジェクションマッピングでいくつかの漢字が象形文字から漢字となり、その用例のような漢文と日本語が表示されています。
多くの観客はちらっと見て次に進むのですが、何が書いてあるのか興味がわいたので、立ち止まって見ていると、なんと40分近く異なる漢字と漢文が流れていました。
大象の影和らぎて山面に落ち
両江の声合して郡前に流る
白蓮集卷第七
寄歐陽侍郎
又聞繁惣在嘉州職重身闲倚市樓大象影和山面落兩江聲合郡前流棊輕國手知難敵詩是天才了解易酧畢竟男兒自髙達徔來心不是悠悠
https://ctext.org/wiki.pl?if=en&chapter=869354
龍蛇洞を出でて閑(しずか)かに雨を邀(まね)き
犀象 花に眠りて人を避けず
羅浮山志会编
弹浮山志会编卷之十人
長囿宋厨业澄露归醇
盐文志九
七言律诗
https://ctext.org/wiki.pl?if=gb&chapter=248033&remap=gb
邀 むかえる・もとめる・まねく ここでは「まねく」と読む。 邀撃=迎え撃つ
山腹雨晴れて象迹を添え 潭心日暖かにして蛟涎を長くす
柳宗元 嶺南江行
瘴江南去入雲煙,望盡黃茆是海邊。
山腹雨晴添象跡,潭心日暖長蛟涎。
射工巧伺游人影,颶母偏驚旅客船。
從此憂來非一事,豈容華髮待流年。
颱母偏驚旅客船,從此憂來非一事。
豈容華髪待流年。
https://ctext.org/wiki.pl?if=en&chapter=484490
象跡 = 象の足跡。日本語訳になぜか「迹」(しゃく)が使われていて、たしかに「象迹(ぞうしゃく)」ということばもあるが、、跡のほうが良いのでは。 蛟涎 = 龍のよだれ。
筆踪龍虎を起こし 舞袖雲霄を払う
李白
李太白文集巻十 歌詩二十九首 贈三 醉後贈王歴陽
醉後贈王歷陽
書秃千兔毫,詩裁兩牛腰。
筆蹤起龍虎,舞袖拂雲霄。
雙歌二胡姫,更奏遠清朝。
舉酒挑朔雪,從君不相饒。
https://www.shidianguji.com/ens/book/HY1070/chapter/1kryh5o6kxgyi?page_from=mingju_detail
兎毛の筆を何千本も使い、詩は牛の腰二つ分も積み重なった。
筆の跡は龍虎の威力を湛え、袖を揺らすと雲が撫でられるようだ。
胡娘二人は高らかに歌い、澄んだ越風の調べを奏で遠くまで響いた。
私は酒杯を掲げ、北の氷雪に挑む。君に従う、容赦はしない。
筆踪(ひっしょう)=筆跡
雲霄(うんしょう)=雲のうかぶ青空
虎殿鴻業を成し 猿岩鳳賊を題す
張説
修書院学士奉敕宴梁王宅賦得樹字
虎殿成鴻業,猿巖題鳳賦。
既荷大君恩,還蒙小山遇。
秋吹迎絃管,涼雲生竹樹。
共惜朱邸歡,無辭洛城暮。
虎の住む館が立派な事業を成し遂げる
気万里を呑むこと虎の如し
辛棄疾
永遇樂
京口北固亭懷古
千古江山,英雄無覓,孫仲謀處。
舞榭歌臺,風流總被,雨打風吹去。
斜陽草樹,尋常巷陌,人道寄奴曾住。
想當年,金戈鐵馬,氣吞萬里如虎。
元嘉草草,封狼居胥,贏得倉皇北顧。
四十三年,望中猶記,烽火揚州路。
可堪回首,佛貍祠下,一片神鴉社鼓。
憑誰問、廉頗老矣,尚能飯否?
努馬を十駕す
功は捨せずにあり
駑馬(どば)は、足の遅い馬。十駕は、馬で10日分の行程のこと。 足の遅い馬でも、 才能がない人でも、努力をすれば才能のある人に並ぶことができるということのたとえ 努馬を十駕とか、努馬十駕などという。
荀子
勸學編 九
積土成山,風雨興焉;
積水成淵,蛟龍生焉;
積善成德,而神明自得,聖心備焉。
故不積蹞步,無以至千里;
不積小流,無以成江海。
騏驥一躍,不能十步;
駑馬十駕,功在不舍。
而舍之,朽木不折;
鍥而不舍,金石可鏤。
https://ctext.org/xunzi/quan-xue/zh
路遠ければ馬の力を借り 日久しければ人の心を見る
道のりが遠ければ馬の力量がわかる,月日がたてば人の心がわかる。 転じて、馬には乗ってみよ、人には添うてみよ.
白き馬は金の羈を飾り、連なりて西北へ駆ける
文選 巻二十七
白馬篇
白馬飾金羈 白馬に金羈を飾り、
連翩西北馳 連翩として西北に馳す。
借問誰家子 誰家子(たれ)かと借問すれば、
幽并遊侠児 幽并の遊侠児なりといふ。
(以下略)
https://yanagawa2019.sakura.ne.jp/soushoku_product/05-08-%E7%99%BD%E9%A6%AC%E7%AF%87/
白馬に金羈を飾り、連翩として西北に馳す のほうが格好いいかも。
覊は、おもがい。たずな
首を伏して甘んじて孺子の牛となる
魯迅
自嘲
運交華蓋欲何求,未敢翻身已碰頭。
破帽遮顏過鬧市,漏船載酒泛中流。
橫眉冷對千夫指,俯首甘為孺子牛。
躲進小樓成一統,管他冬夏與春秋。
魯迅の詩「自嘲」 横眉冷對千夫指、俯首甘為孺子牛
https://zh.wikisource.org/zh-hant/%E8%87%AA%E5%98%B2_(%E9%B2%81%E8%BF%85)
「眉をひそめて多くの人の指弾を冷ややかに見つめ、頭を下げて喜んで子供たちのための牛になる」つまり、敵には毅然と立ち向かい、人民には喜んで尽くすという、自己犠牲と献身を表す言葉です
孺子牛は、春秋時代の斉景公が、子供のために牛の真似をして、子供に背中に乗せられて遊んだという故事に由来
中国では、毛沢東が「俯首甘為孺子牛」をよく引用し、革命家は人民のために奉仕すべきだと強調
花暖に青牛臥し 松高に白鶴眠むる
李白
尋雍尊師隠居(唐詩選)
群峭碧摩天、逍遥不記年。
撥雲尋古道、倚樹聴流泉。
花暖青牛臥、松高白鶴眠。
語來江色暮、濁自下寒煙。
松高白鶴眠のフレーズは、日本でも禅宗や茶の湯などで好まれ、掛け軸などに使われている。
花は暖にして 青牛臥し、松高うして白鶴眠る。
牧童帰去するに牛の背に横たわり 短笛腔無くも信口して吹く
雷震
村晩(宋詩鈔初集)
草滿池塘水滿陂
山銜落日浸寒漪
牧童歸去橫牛背
短笛無腔信口吹
https://www.treasurebowl.ches.tp.edu.tw/100plan/ches-poetry/poem606.html
牛羊散漫たり落日の下 野草は香を生じ乳酪は甜し
薩都剌(サドゥラ)
雁門集 上京即事五首
牛羊散漫落日下
野草生香奶酪甜
捲地朔風沙似雪
家家行帳下氈策
https://kanbun.info/syubu/jokeisoku.html
後半は、 地を巻く朔風 沙(すな) 雪に似たり 家家の行帳(こうちょう) 氈簾(せんれん)を下(くだ)す
奶=嬭 (ない、だい) 乳のこと 甜=てん・でん、うまい 行帳=モンゴル風のゲル(移動テント) 氈簾=じゅうたん記事の垂れ幕
薩都剌(さっとら)は、13~14世紀の元の詩人で、ムスリム系と言われており、「サド ゥラ」と読むのではないかと言われている。
天は蒼蒼にして野は茫茫たり 風吹き草低れて牛羊を見る
斛律金(樂府詩集)
敕勒歌
敕勒川 陰山下 天似穹廬
籠蓋四野 天蒼蒼
野茫茫 風吹草低見牛羊
敕勒川は、敕勒の遊牧する平原。 陰山は、陰山(インシャン)山脈。北京の西方、烏梁素海(ウランスハイ)~五原県の北側に広がる山脈。 穹廬は、ドーム型のテント。パオとかゲルとか。 籠蓋は、文字通りカゴのふたのように覆いかぶさること。
敕勒歌=ちょくろくは、北方のトルコ系遊牧民で、敕勒歌は彼らの民謡。 斛律金(こくりつきん)
中国語圏では、小学校で暗誦する漢詩の一つとしてとてもポピュラーなんだそうです。
斜陽墟落を照らし 窮巻に牛羊帰る
渭川田家
王維
斜陽照墟落,窮巷牛羊歸。
野老念牧童,倚杖候荊扉。
雉雊麥苗秀,蠶眠桑葉稀。
田夫荷鋤至,相見語依依。
即此羨閒逸,悵然吟式微。
呦呦(ゆうゆう)と鹿鳴き 野の苹(へい)を食む
詩經 小雅 鹿鳴之什
呦呦鹿鳴,食野之蘋。
我有嘉賓,鼓瑟吹笙。
吹笙鼓簧,承筐是將。
人之好我,示我周行
蘋は、版によって異同があり、蘋、苹、芩、蒿などがある。 蘋が使われているのは「詩経」ではなく「太平御覽」の方。
呦=ゆう 蘋=ひん。うきくさ。
苹=うきくさ。よもぎ。
苹は、日本語ではあまり使わないなぁ。
明治時代の「鹿鳴館」はここから命名されたらしい。
樹は深く時に鹿を見 渓は午にして鐘を聞かず
李白
訪載天山道士不遇
犬吠水声中、桃花帯露濃。
樹深時見鹿、渓午不聞鐘。
野竹分青靄、飛泉挂碧峰。
無人知所去、愁倚両三松。
李白18歳頃の詩。
霜落ちて熊は樹に昇り 林空しく鹿は渓に飲む
魯山山行
梅尭臣
適與野情愜
千山高復低
好峯隨處改
幽徑獨行迷
霜落熊升樹
林空鹿飲溪
人家在何許
雲外一聲雞
https://note.com/yokoyamayuta/n/ne33f27370534
登快閣
黄庭堅
痴儿了却公家事,快閣東西倚晚晴。
落木千山天遠大,澄江一道月分明。
朱弦已為佳人絶,青眼聊因美酒横。
万里歸船弄長笛,此心吾与白鴎盟。
https://zh.wikisource.org/wiki/%E7%99%BB%E5%BF%AB%E9%96%A3
律回り歳晩れ氷霜少なし 春の人間に到るを草木知る
草木植成すれば 国之富也
晴日暖風麦気を生じ 緑陰幽草花時に勝る
初夏即事
王安石
石梁茅屋有灣碕
流水濺濺度兩陂
晴日暖風生麥氣
綠陰幽草勝花時
https://www.ginken.or.jp/index.php/reading_content/reading_content-12363/
夜來南風起こり 小麥隴を覆いて黄る
観刈麦
白居易
田家少閑月
五月人倍忙
夜來南風起
小麥覆隴黄
https://ameblo.jp/akaeboshi/entry-12374857219.html
小麦村を繞(めぐ)り苗郁郁とし 桑は陌(あぜ)に満ち椹(くわのみ)は累々たり
劎南詩稾巻八十二
宋 陸游 撰
事業無聞負聖時
滄波自照角巾攲
養成林下無窮嬾
占盡人間徹底癡
小麥繞村苗鬱鬱
柔桑滿陌椹纍纍
醫翁簭叟眞堪友
搜索殘尊與共持
https://nl.go.kr/aiocr/editor/1428/107
鬱には、鬱蒼(うっそう)という使い方があるように、繁るという意味がある。
百里西風 禾黍(かしょ)香ばしく, 鳴泉竇(とう)に落ちて穀場に登る。
禾熟
孔平仲
百里西風禾黍香,
鳴泉落竇穀登場。
老牛粗了耕耘債,
齧草坡頭臥夕陽。
宋詩選注
竇=とう・とく。穴、あなぐら。
https://taweb.aichi-u.ac.jp/toyohiro/kong%20pingzhong.html
禾を鋤きて日午に当たる 汗は滴る禾下の土
憫農(全唐詩 卷四百八十三 古風二首)
李紳
春種一粒粟,秋收萬顆子。
四海无閑田,衣夫犹餓死。
鋤禾日當午,汗滴禾下土。
誰知盤中餐,粒粒皆辛苦。
早禾収め罷みて晩禾青し 秧を插し開けて滿眼成る
秋雨
陳藻
早禾收罷晩禾青 再插秧開滿眼成
誰道秋風專肅殺 依然四月雨中行
插は、挿 秧は、なえ
我天公に勸む、重ねて抖擻して 一格に拘わらず人材を降せと
己亥雜詩三百十五首其百二十五(定盦文集補)
龔自珍
九州生氣恃風雷
萬馬齊瘖究可哀
我勸天公重抖擻
不拘一格降人材
https://kanbun.info/syubu/kigai125.html
龔自珍は、19世紀清朝の学者。 九州は、中国の9つの地域全部の意味。 抖 とう・つ。ふるう、あげる。 擻 そう。ふるえる。 抖擻(とそう) 煩悩を払って身を清め、一念発起すること。
終身の計は 人を樹うるに如くは莫し
管子 權修
一年之計、莫如樹穀。
十年之計、莫如樹木。
終身之計、莫如樹人。
一樹一穫者、穀也。
一樹十穫者、木也。
一樹百穫者、人也。
我苟種之,如神用之,舉事如神,唯王之門。
https://ctext.org/guanzi/quan-xiu/zh#n48184
樹うるは、ううると読む。植えること。 莫し=無し。 1年の計画なら穀物を植え育てる以上のことはない。 10年の計画なら木を植え育てる以上のことはない。 一生の計画なら人を植え育てる以上のことはない。
仁者は人を愛し 礼有る者は人を敬す
天行は健なり 君子以て自彊して息まず
易經 乾
彖傳:大哉乾元,萬物資始,乃統天。雲行雨施,品物流形。大明始終,六位時成,時乘六龍以御天。乾道變化,各正性命,保合大和,乃利貞。首出庶物,萬國咸寧。
象傳:天行健,君子以自強不息。
易経のはじめに出てくる句。
https://ctext.org/book-of-changes/qian/zh
青青たる子が衿 悠悠たる我が心
子衿(詩経)
青青子衿 悠悠我心
縱我不往 子寧不嗣音
青青子佩 悠悠我思
縱我不往 子寧不來
挑兮達兮 在城闕兮
一日不見 如三月兮
あるいは、曹操の「短歌行」
短歌行
曹操
對酒當歌 人生幾何
譬如朝露 去日苦多
慨當以慷 幽思難忘
何以解憂 惟有杜康
青青子衿 悠悠我心
但為君故 沈吟至今
呦呦鹿鳴 食野之苹
我有嘉賓 鼓瑟吹笙
明明如月 何時可採
憂從中來 不可斷絶
越陌度阡 枉用相存
契闊談讌 心念舊恩
月明星稀 烏鵲南飛
繞樹三匝 何枝可依
山不厭高 海不厭深
周公吐哺 天下歸心
西湖を把って西子に比せんと欲すれば 淡妝濃抹總べて相宜し
飲湖上初晴后雨二首
蘇軾(そしょく)
朝曦迎客豔重岡,晚雨留人入醉郷。
此意自佳君不會,一杯當屬水仙王。
水光瀲灩晴方好,山色空蒙雨亦奇。
欲把西湖比西子,淡粧濃抹總相宜。
https://kanbun.info/syubu/kojoni.html
蘇軾は唐宋八大家の一人
幾處に早鶯の暖樹を爭い 誰か家に新燕の春泥を啄む
錢塘湖春行
白居易(白氏文集)
孤山寺北賈亭西,水麵初平雲腳低。
幾處早鶯爭暖樹,誰家新燕啄春泥。
亂花漸欲迷人眼,淺草才能沒馬蹄。
最愛湖東行不足,綠楊陰裏白沙堤。
故人鶏黍を具え 我を邀えて田家に至らしむ
具=そなえる、そろえる 鶏黍=けいしょ 邀=むかえる
過故人莊
孟浩然
故人具鶏黍
邀我至田家
緑樹村邊合
青山郭外斜
開軒面場圃
把酒話桑麻
待到重陽日
還来就菊花
腳は脚
遠く寒山に上れば石径斜めなり 白雲生ずる処人家有り
石径=せきけい、せっけい
山行
杜牧
遠上寒山石徑斜
白雲生処有人家
停車坐愛楓林暮
霜葉紅於二月花
https://www.futurelearn.com/info/courses/japanese-rare-books-sino-j/0/steps/121169 https://www.ginken.or.jp/index.php/reading_content/reading_content-2882/
喜気龍に乗りて歩歩春となる 梅花の影裡に君が行くを送る
鷓鴣天·喜氣乗龍歩歩春 宋 无名氏
喜氣乘龍步步春。 梅花影里送君行。 君行直到藍橋處, 一見雲英便愛卿。
鸞鶴舞,鳳凰鳴。 群仙簇擁綠衣人。 我嗏有句叮嚀話, 千萬時思望白雲。
无名氏=詠み人知らずの意
鷓鴣天(しゃっこてん)と呼ばれる詩の形式。
雨過ぎて龍の去りし所を知らず 一池の草色に萬蛙鳴く
願わくは身雲と為り 東野の龍と化さん
天街の少雨に潤うこと酥の如し 草色遙かに看るも近づけば却って無し
好雨時節を知り 春に当たりて乃ち發生す