1908年(明治41年)三越呉服店 時好 第6巻第3號

三越呉服店は、古くから商品カタログを発行していました。国会図書館にはこのカタログが部分的に保管されています。

このカタログを見るとところどころに写真が掲載され、トレンドの解説や、化粧品の使い方が説明され、読者の川柳や短歌が掲載されたりしており、現在のパンフレットとあまり変わらない密度の情報が掲載されています。 この中にところどころ、鞄に関する記述がみられます。

なお、この資料は、2022年時点で「国立国会図書館/図書館・個人送信限定」とされているので、閲覧するには国会図書館や提携した図書館に出向くか、国会図書館オンラインのアカウントが必要になります。 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1478554

そこで、以下に、鞄に関して書かれた部分を、書き起こしてみます。

時好の大阪

盛に鞄を善用すべし

新時代の旅行−世界漫遊と三越の鞄−『西比利亜』

遠方から衣類を送ったり、長途の旅行などには至極便利であると云ふので、今もなほ盛に柳行李は用ひられてゐる、成る程柳行李は手軽で或る場合には便利であるには違ひないが、茲に鞄といふものが出来てから、その便利さは凡て鞄の方へ奪はれて居る、鞄が何時の頃に出来て、何時の頃日本へ渡つて、何時の頃から日本ででも出来るやうになつたのであるかの詮索は姑云く措き兎に角その構造と云ひ其體裁と云ひ、到底柳行李などの敵ぶ處でない、殊に柳行李は其形式殆ど一定して居るが、鞄の方には多少變つた種類もあり、且柳行李と同様の目的以外に用ひられる構造のものもある、旅行用鞄、手提鞄などは柳行李と同様の用途をなすものであるが、卷鞄、抱鞄などは全く彼れとは應用の目的を異にしてゐる、柳行李は舊思想の道中、鞄は新時代の旅行を意味するものとして差支なしとすれば、盛に鞄の用ひられんことを希望するのである、鞄が盛に用ひられんければ鐵道の進歩もなければ、航海の發達もない、鐵道の新法や航海の發達が出来なければ社會をして是も亦、特殊の容積のものを造らしめ御顧客の御便利に供しつゝある、尚ほ序なれば他の鞄に付ても申し上げおかんに、手提鞄にも旅行用と平常用との二種ありて、旅行用のものは平屋根形、棒屋根形、丸屋根形、藏形で何れも丸シボ革、茶絖革、鰐革等で造られてある、その中最も多く用ひられるのは平屋根形、棒屋根形の二種で、鰐の背皮を以て造れる弊店特製のものは雅趣を帯び、紳士用としては最も適當せるものと思はる、また平常用のものには三角形、反對三角形、丸型等ありて何れもボツクス革、丸シボ皮、鰐革などで制作されてある、この他なほ英國製のもので種々堅牢な新製品が到着して居る、次で卷鞄、これは防水ズツク、茶ズック等にて製し毛布或は羽根蒲團の類を包み込みバンドを以て締め括るやうのなしたるもの、又抱鞄は折鞄とも云ひ書類を入れる目的のもので、二ッ折、三ッ折、四ッ折等折れ疊みの如何によつて名づけられてある、而して以上の各種鞄はいづれも東京本店附属の工場にて特製せるものなれば、その構造の嶄新にして且堅牢なることは申すまでもないことである、此上文明ならしむる譯には行かないから、苟も新時代の新人物をして新智識の競爭塲裡に在るの士は、宜しく進むで歐米の新智識を吸取すべく鞄の善用を企つべしである、彼の大阪及び東京の朝日新聞社が今回催したる世界漫遊の如きは、即ち鞄を最も善用せるものとして双手を擧げて賛意を表するのである、而して其大阪朝日新聞社の募集に應ぜる世界漫遊者が携帯せらるゝ旅行鞄は、悉くわが大坂三越呉服店に於て購求せられたるものにて、多くは三越特製の『トランク』である、この『トランク』は船中に在つて其寝台下へ仕舞ひ置くことが出来るやう丈が低く、且至極丈夫に構造されてあるから、長途の旅行用には最も適當したものである、その上弊店が種々苦心して西比利亞鐵道によりて旅行せらるゝ方の御便利を圖り、同鐵道の腰掛下に納りの好いやうに構造し、之を『西比利亞』號トランクを携帯せられたならば非常に便利を感ぜらるゝ事であらうと思ふ、トランクの他に矢張旅行鞄でケースと云ふのがある、之はトランクより稍々手軽く、衣服を容るゝを主眼として構造されたものだ。


  • 公開日 2022-10-26
  • 最終更新日 2022-10-26
  • 投稿者 太田垣