05 いろいろな辞書で「鞄」を調べてみる

せっかく図書館に来て、いろいろな漢和辞典を開いたのだからおなじく、百科事典や国語辞書を開いてみよう。

広辞苑(第五版)

中国語「夾板(キヤバン)」(櫃の意)、または「夾槾(キヤマン)」(「文挟み」の意)の転。

大百科事典

1878年,名古屋の博覧会に大阪の森田直七が出品した際の褒賞状には,かたかなでカバンと書かれてあった。また同年,東京府勧工場に谷沢禎三が出品した飾箱の上の看板に〈鞄〉の字が使われたが,これは革包の2字を合体したもので,当時一般には革盤(かわばん)と呼んでいた。漢字の鞄は元来なめし革・革なめし職人を指す。

出典:『大百科事典』 (平凡社)

日本語大辞典

かばん【鞄】〔名〕(ふみばさみの意の中国語「夾板」の日本語読み「きゃばん」または櫃(ひつ)の意の中国語「夾★」の日本語読み「きゃばん」「きゃまん」から出た語。

「鞄」は元来、なめし皮、また、それを作る職人の意。明治期に「かばん」をあてたもの)皮またはズックなどで作り、中に物を入れる携帯用具。

もとは今のトランクのような形のものをさしたが、現在では通勤通学などに用いる手軽なものをいう。

*新潟新聞-明治10年(1877)四月七日「是を以って今カバンの中を掻探し、反古にひとしき鼻紙の皺を展べ」

*雪中梅(1886)<末広鉄腸>下・一「人足一人(いちにん)を雇ひ、之れに革手提(カバン)と毛布(けっと)包みを担はせて案内者となし」

*思出の記(1900-01)<徳富蘆花>三・一二「伯母は荷造りをした鞄(カバン)の傍(わき)に座って」

*風俗画報-三四四号(1906)横浜より父島まで「毛織物も虫害を受け易き故に締まりよき革包(カバン)か左もなくば和製支那革包(カバン)等を携帯すべし」

〔語誌〕幕末・明治初期の対訳辞書等における訳語には見あたらず、明治10年頃までの小説等には「胴乱」という語がこの意で使われていた。「かばん」は、10年代から20年代にかけて急速に定着していく。当て字に初めは「革手提」「革袋」「革包」が使われていたが、明治22年の大槻文彦の「言海」に初めて「鞄」の字が当てられる。

〔発音〕<なまり>ガッパン〔岩手・秋田〕ガバ〔福島〕ガバン〔青森・岩手・仙台音韻・仙台方言・秋田・福島・栃木・埼玉・埼玉方言〕カパン〔長崎〕カボン〔紀州・和歌山県〕ガンバ〔津軽語彙〕

<標ア>(0)<京ア>(0) [辞書]言海 [表記]鞄(言)

出典:『日本国語大辞典』第二版(第3巻)おきふ~きかき P911 (改行等は小生)
★は、木へんに曼。槾

日本語源大辞典 

ふみばさみの意の中国語「夾板」の日本読み「きゃばん」または櫃の意の中国語「夾槾」の日本読み「きゃばん」「きゃまん」から出た語。

日本国語大辞典

転記していると長くなるので内容は省略するが、初出を調べるのに便利な日本国語大辞典によると、辞書への初出は1889年(明治22)の言海と書いてある。また、徳富蘆花の1900年(明治33)の小説「思出の記」に鞄(かばん)という現代の用法が出ているとのこと。それ以前は、革手提と書いてカバンと読ませていたようだ。また、この辞書では、外国語由来説を間接的ながら否定し、中国語由来説をとっているのがおもしろい。

節用集

節用集というのは、室町時代から明治時代まで使われていた、一般的な国産百科事典のことで、時代によってさまざまなバリエーションがある。詳しくは、辞書の世界という岐阜大学国語学研究室のコンテンツを見ていただきたい。

ジテンフェチさんのサイトで節用集の存在を教えていただいたのだが、同時に「日本国語大辞典に掲載している項目は、節用集をチェック済みなので、もし節用集に載っていれば、日本国語大辞典に、出典として記述されているはずだ」との指摘ももらっている。したがって、江戸時代にこの「鞄」という漢字がポピュラーだったとは考えられないのである。