鞄職人になるには

単刀直入に言って、手作り鞄を製作する職人になるための確実なレールを敷いてくれる都合の良い施設はありません。では、どうすればいいのか?を考えるためのページです。

職人になるには、技術のほかに仕事をもらうクチを確保することが必要です。どこかの会社の社員になれば仕事はもらえますが、今や中国等に外注する時代です。腕の無い見習い鞄職人を雇う会社がどれだけあるでしょうか。個人で独立する場合は、安定的に資材を仕入れ、販売するルート開拓が重要になります。個人商店を経営するということは、1日の多くの時間を鞄制作以外のことで取られるということです。

職人になるためには、そういったことを考えて勉強する方法を考えてゆかなければいけません。鞄を作れる技術だけではいけないのかもしれないのです。ホームページで宣伝し、税務署に提出する申告書類を書き、国民健康保険を自分で掛けないといけないのかもしれませんし、中国語や韓国語を操って、中国人の職人と仲良くしないといけないかもしれません。

情報が集まれば随時更新します。

◆教育機関

以前は無いに等しかったのですが、2005年頃から、鞄作りをメインに据えた学校が出てきました。学校と言っても文部省の教育機関としての専門学校、専修学校が開港しているスクールから、カルチャースクール的なものまで様々です。詳しくは後述しますが、2007年時点で本格的なのは、アトリエフォルマーレ バッグクラフトマスタースクールではないかと思われます。

◆職人はどこにいるのか

ホームページを立ち上げている職人さんは例外中の例外と考えるべきでしょう。大抵は目立たないところに生息しているようです。ショップを持っている職人さんなんかは比較的目立ちますから、まずは電話帳などで地道に調べてみることでしょう。大手の鞄メーカーなどにも職人さんはいるわけですが、メーカーに就職できたとしてもいきなり職人候補生として雇ってくれるところはほとんど無いと思います。

◆鞄関係会社からの道

鞄の会社といっても、浅草近辺に本社を持つ製造会社や、青山等おしゃれな場所に本社を持つ少数精鋭のデザイン企画会社までいろいろです。もちろん卸問屋、小売店などを含めれば関連産業は無数にあります。それぞれ自前のブランドを持つためには、苦労が絶えないようですが、可能性は決してゼロではありません。最初は鞄のデザイン画が描けなくても、そういった現場に携わっていく中でどこかでチャンスにめぐり合うかもしれません。
そういった意味で、ダレスバッグ倶楽部というサイトに載っている業界の話(特に、手記「鞄屋」や、これでいいのか?バッグ業界)は、業界理解の参考になります。

◆分業時代の難しさ

どこの製造業も同じでしょうが、この世界もご多分に漏れず今は分業が主流となっています。プロデューサーやデザイナーの後ろに型紙屋、抜き型屋、抜き屋(裁断屋)さん、漉き屋さん、縫製屋さん、仕上げ屋さんなどとあって、意外とトータルで製造工程を理解している人が少なかったりします。あとは、修理会社の裏方やなんかにいらっしゃるようです。でも、大抵は自宅がそのまま作業所になっているようで、あまり事務所にはいないみたいです。

◆美大・芸大

勉強のとっかかりとして、芸術系、美術系の学校という選択肢があります。美大、芸大、専門学校など、過去の卒業製作やカリキュラムを確かめながら選んでみてはいかがでしょう。文化服装学院にはファッション工芸専門課程(3年)というのがあり、ここでは鞄・靴・帽子・アクセサリーの初歩の初歩は学べるようです。

文化服装学院の学生さんからカリキュラムに関する詳しい情報をいただきました。(2001/Aug/20)

私は、文化服装学院の工芸科バッグコ-スに通っていますが、カバンの基礎的なものとして、 <横マチ・通しマチ・スワロウマチ・外縫い横マチ・分割通しマチ・口がね・はり> と、三年間を通して7つの基礎とその応用作品7つ、そして卒業作品として5つを作ります。 学校のなかに 革すき・平ミシン・腕ミシン が設備されてあって、先生方の立ち会いのもと使用できるようになっています。手縫いも個人でやっています。 大体、1学年20人程です。
 文化祭や卒業展示会などで、生徒作品を見ることができます。 文化服装学院でなら十分勉強できると思いますよ

…ということで、文化祭などに行って情報収集するといいかもしれません。

◆職業訓練校

鞄の中でも革製の鞄を作りたいという人には、鞄というより革の扱いを基礎から学べる公的機関として、東京都城東職業能力開発センター台東分校があります。ここは、カバンではなくクツの製造技術を学習する学校です。製くつ科という1年の学習過程があり、技能照査試験に合格すると技能士補の資格が得られます。

入学の条件として、靴の製造業に就職することが前提となっています。鞄が作りたいから、とは口が避けても言えません。まぁ裏技ということでしょうか。ただ、革の取り扱いの基礎を学ぶということから言えば、非常に貴重な学校です。革靴を作る技術は、革のバッグを作る技術と根底では一緒だと思います。ただし、最近なぜか若い人の入学希望が増えていて、関門も高くなっています。詳しくは、革靴職人さんのページを参照してみてください。実際にここの教壇に立たれていた方で、テキストなども作られているようです。職業訓練校全般については、映画「学校III」なんかが参考になるかもしれません。

◆カルチャーセンター・スクール

2003年に東京・上野に、アトリエ・フォルマーレというプロの鞄職人を目指す人のためのスクールが開校して以来、最近になって趣味のクラフトスクールよりは本格的なものが出てきています。

アトリエフォルマーレ バッグクラフトマスタースクール

HIDEAKI MIHARA氏の呼びかけで創設された、本格的なバッグデザイナーを養成するための少人数の教室。東京・御徒町と横浜関内にスクール。ただし専門学校などではない。話によれば、相当本格的で、生徒の多くは高校生上がりではなく、デザイナーやメーカーに勤めている人等や将来独自ブランドを立ち上げようと考えている美大生等で、デザイン手法や縫製などの制作に関することから原価計算、価格設定の方法まで、鞄職人が知っているべきことを網羅的に教える。ただし宿題なども出るため、自宅にミシンなど、相応の設備を用意する気構えでなければ続かない。

靴デザイン・クラフトスクール

名古屋のスクール。名古屋靴工業協同組合が主催しているのが特徴で、2007年より鞄デザインスクールも開校している。

ハナサキジュンコ・バッグ・アーティスト・スクール

渋谷・梅田。

あと、有閑マダム向けのカルチャースクールなどでバッグのほか、裁縫や皮革工芸なんかをやっていたりします。そういうところに参加して、勉強し、かつ講師の先生から他に人脈を広げて行くというのがいいかもしれません。料理教室なんかも同じなんでしょうが、所詮は素人相手の趣味の世界なんで、内容も時間の無駄のお遊びクラスも多いでしょうから、そのあたりの見極めが肝心かも。少なくともカルチャークラブで物足りないと思わないと、プロの世界では通用しないでしょう。

革工芸の工房が開催している鞄教室 

少人数ながら、週1回程度のペースで鞄作りを教える鞄教室を開催している鞄工房があちこちにあります。鞄のリンク集から鞄工房等を探してみてください。

◆専門学校

専門学校がバッグコースを設置するというのは、ここ数年の新しい流れです。一例として以下のような専門学校がコースを開設しています。ただ、まだ卒業生が少ないため、レベルや就職状況などについてはあまりよくわかりません。

専門学校ヒコ・みづのジュエリーカレッジ 渋谷

ジュエリーカレッジとしては40年の伝統があるが、バッグのコースを設置したのは、2007年のこと。しかし講師陣には、ハーベストレーベルやLuggage Label等を手がけた山口幸一氏やL.E.D.BITESのさとうみつお氏などがアドバイザー等に名を連ねているのが特徴。(アドバイザーだからぜんぜん顔を出さないのかもしれませんけど)

京都芸術デザイン専門学校

マイスターレッツコース

大阪ファッションデザイン専門学校

バッグコース

◆留学について

イギリスやイタリアの学校の中には、バッグ製作のコースを設けているところがあります。言葉の壁を乗り越えて、それらにチャレンジしてもいいかもしれません。

◆弟子入りという選択について

鞄を作っている人のところに弟子入りする方法も無くは無いですが、なにせ腕の立つ昔気質(?)の職人さんは高齢だったり、零細だったり、(技術はあっても)貧乏だったりするので、無給覚悟でお願いしないと雇ってくれるところは少ないでしょう。とはいえ、江戸や明治の住みこみ職人の時代と違い、雇用やら最低賃金やらと、なかなか無給で仕事を覚えさせることも難しいのが現状のようです。

◆独学

いろいろ考えるよりは、独学で進むほうがいいという人もいるでしょう。その場合、沢山の鞄を分解して自分なりに理解してみたり、道具なんかも自分なりに研いだり使いやすいように改造してゆこうという姿勢が大切でしょう。最近は主婦の趣味が高じて布バッグをインターネットやフリーマーケットで売る、というスタイルもあるみたいです。原宿なんかで露天をしている人もいますね。勉強のターゲットは、鞄だけではなく、靴や繊維、皮革なめし、カービングなど広範囲にカバーしておくほうがいいでしょう。海外の蚤の市で昔の手縫いのバッグを手に入れたりする人もいるそうです。

◆鞄職人の現状

鞄のサンプルを製作している現役の職人さんから、掲示板に最近の職人事情について投稿がありました。多少添削していますが、ほぼ全文載せておきます。その後にもいくつかフォローの返事がついていたりしますので、興味のある方は、過去ログ36(2002/7)をご参照ください

皆さん初めまして。
私は都内で鞄のサンプル職人をしているものです。
(専門は、ナイロン系のスポーツ、アウトドア、カジュアルバッグですが…)

鞄職人になるにはというのを拝見させていただきました。
私の場合、デザイナー志望で入ったメーカーでサンプル部門にまわされてしまったのが職人になるきっかけで、その会社に約三年程在籍して、他の会社にお声をかけていただき、そのお声をかけていただいた会社で約十年程仕事をしていたのですが、ここの所の不景気で会社自体が無くなってしまい、今はフリーでの仕事を一年半程しております。

しかし、去年ぐらいまではなんとか細々と暮らしていくくらいの仕事はありましたが、今年になってから更に仕事が減り、年末まで持たないような有り様です…

今は生産だけでは無く、デザインサンプルも韓国や中国で作られており、生産工場でサンプルを作る場合、生産をそこの工場に入れる場合はサンプル代は無料、もしサンプル専門の所にお願いしたとしても、韓国では日本の6割から7割程度で作れるそうで、納期的にも鞄の運び屋さんが、出来たらすぐに飛行機に乗って持ってくるらしく、金曜日に十数本発注して月曜日の朝9時には手許に届くように出来るみたいです。

と、いう状況なのでメーカーさんでも雇うどころか、社内の職人さんには口には出せないけれど辞めてほしいというのが本音で、うちの様なフリーでやっている職人さんは国内で仕事が無くなった場合、韓国か中国で就職するか、諦めて職人を辞めて新しい仕事に着くしか無いというような感じです。

もちろん、総ての職人さんがそうという訳では無いですし、革関係の職人さんのことは分かりませんが、多くの会社、メーカーさんが韓国や中国に進出し、サンプル作りから生産まで一貫したシステムを作ろうとしているのは事実です。

なので、ハッキリいって職人になる道はお勧めしません。職人さんが一人前になるまで最低十年はかかるので、今は良くても十年後はどうなっているか分らないですし、上記の様なこともありますので…

それでも職人になりたいっ!という方は、日本では無く、韓国の工場やメーカーさんをあたった方が速いかも知れません。日本からの仕事が沢山あるはずですので人手も欲しいでしょうし、日本語と韓国語ができればビジネスにも有利ですし…
(数年後を考えると中国が良いかも知れませんが)

でも、仕事は相当きついと思います。多分休みはほとんど無いと思った方が良いでしょう。それから給料も日本の半分だと思って下さい。

それでもっ!と思う方はがんばって職人を目指して下さい、影ながら応援しています。
長々と書いてしまって申し訳ありません、このへんで書くのを終わりにしたいと思います。

相当悲観的なトーンですが、でも、これも一面だと思います。職人を目指す人は、こういう厳しい現実もあることを理解しておくべきでしょう。

◆自習のための本は?

書籍、資料類の情報は、日下公司さんのページを参考にしてみてください。結構品切れ、絶版本が多いので古本屋なんかにアンテナを張っておくと良いかもしれません。あるいは浅草近辺の鞄の材料を仕入れるお店なんかにいっしょに本も置いてあったりします。神戸の六甲アイランドには、神戸ファッション美術館というのがありファッション関係の雑誌や書籍を沢山そろえています

◆オマケ

鞄職人の道は一本ではないし、100人いれば100通りの道があるのが現代の鞄職人の姿じゃないでしょうか。 デザイナーから製造企画に移る人、アルバイトから鞄屋の店長を経てオリジナルブランドを作る人、フリーマーケットの常連から現代芸術家に変身する人など。

どの職業にも共通するのでしょうが、最後には人間的な感性と探求心や向上心を持つものだけが残り、半端な根性の人はやっぱり淘汰されてしまうのでしょう。日ごろから鞄に限らず、本物のものづくりを見るようにして、常に感性を研ぎ澄ましていることが重要だと思います。

いろんな職人さんに伺うと、鞄作りにある程度のセオリーはあっても、そこから先は長年の創意工夫で成り立っているようです。鞄を作る道具さえも自分で作る気概が必要です。

また、ものづくりにとって、中国の国力は無視できない存在です。アパレルや革の仕入先として海外の為替も重要です。国際感覚は忘れずに。