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鞄をオーダーするときに気をつけること(その6)

◆サンプル、試作、プロトタイプにいくらお金を掛ける意思があるかをハッキリさせる

鞄をオーダーする者にとって、一番不安なのはオーダーをしてから出来上がるまでの時間です。「ほんとうにあの説明でこちらの意図は伝わったのだろうか」と後悔するのは大抵、打ち合わせを済まし、「じゃあそれで作りましょう!あとは半年お待ちください」と、オーダーした後の話です。

実は小さな鞄工房であれば、バックオーダーの制作があるので、「半年待ち」の場合であれば、数か月は多少の設計変更は可能なのです。ただ、そのオーダーのために革を仕入れたり、金具を発注したりしている場合もあるので、時間が経つにつれて、変更は利かなくなってきます。ただ、できるだけそういった変更はしない方がお互いいいですし、悩みだすとあれこれ止まらなくなる場合もあり、それは鞄工房にとってはいい迷惑です。また、オーダーしてから出来上がるまでの間に期待が膨らみすぎて、オーダー時の会話を忘れている人もいます。そうなると、出来上がってきたときに「こんなの注文したかなぁ?イメージと違う!」ということになってしまいます。

そこで、鞄工房はいろんな方法でサンプルや試作、プロトタイプを提供し、出来上がりのイメージを具体的につかめるように工夫をしています。紙やプラスチック、安い革等で実物大の模型を作って確認する職人、ほぼ同品質の革で試作品を作ってしまう職人、スケッチ画を何枚も書いてくれる職人等。

こうした説明は素人目にはとても親切でわかりやすくなります。ただ、こうした作業は場合によっては鞄を1個別に作るのと同じだけの労力をかけているわけで、コストもばかになりません。超高級品を扱う工房などでは、金具の設計から試作をはじめて、軽自動車が買えるくらいのコストを鞄1個の値段に載せてくる場合もあります。既存の型紙であればその三分の一程度の価格で済んでいたかもしれません。ほとんど研究開発費です。また試作ができたら、それを実際に見にゆき、コンセプトとずれていないかどうか、真剣に打ち合わせをするのも、発注者の義務です。

こうした実際の鞄制作作業にかかる原価や工賃以外の労力に幾らお金を払う気があるのか、そこの意志はある程度はっきり示す必要があるでしょう。一回プロトタイプを作ってもらったら、そこで相応のお金を払うといった覚悟があったほうがいいでしょう。

鞄をオーダーするときに気をつけること(その5)

◆コンセプトはしっかり伝え、プロの提案は良く聞く

このテーマは一番難しいテーマです。オーダーする側、オーダーを受ける職人の側の普段のコミュニケーションスタイルがぶつかり合うところでもあります。鞄職人から見れば、優柔不断なタイプと、頑固なタイプはなかなかやりづらいお客さんのはずです。鞄職人さんにもコミュニケーションや説明が下手で変な人がいますが、それについてはまた別の機会にするとして、まずはオーダーする側が気を付けることを考えてみたいと思います。

◆コンセプトは何か

なぜ鞄をオーダーしようと思うのか。その気持ちがどれだけ職人に伝わるのかによって、職人さんの心の込め方は違ってくると思っています。頻繁に鞄をオーダーする人があまり浮気をせず一人の職人さんのところに通うのは、この心の込め方が伝わるからではないかと思います。どこぞの鞄メーカーの社訓(?)に「一針入魂」というのがありますが、魂を込めやすいコンセプトを伝えるのは重要なポイントです。

たとえば奥さんやご主人、息子さん等にプレゼントするのであれば、その気持ちは比較的伝えやすいと思います。息子さんの高校通学バッグだとか、奥様への何かのお祝いのプレゼントだとか。そして、どういうシチュエーションで使ってほしいのかを伝えます。ちょっとしたお呼ばれ等で使うのか、日頃、車で買い物に出かける時に使うとか。いろいろイメージはしやすいものです。

難しいのは、自分のために作る場合です。自分のことは自分で分かっているために、かえって他人に伝えることが難しくなります。たとえば「仕事で使います」と説明しても、鞄職人さんはいろんな人を相手にしています。お医者さんと商売人では違うでしょうし、銀行マンとWebデザイナーでは、もしかしたら普段のドレスコードが違うかもしれません。

そこでビジネス的にはオーソドックスな手法ですが、まず現状の問題点や不満な点を説明し、それを解決する手段として鞄を作ることにした、という話の流れを作ってゆくと比較的コンセプトが伝わりやすくなると思います。

  • 基礎情報
    • その鞄は誰が使うのか? 
    • その鞄は、通勤で使うのか?通勤手段は車、電車、バイク、自転車、あるいはその組み合わせ?
    • 持ち歩くときのかっこうは、背広?普段着?タキシードなど正装?スポーツ?コスプレ?
    • パソコンは持ち歩くのか?
  • 今、不便に感じている点
    • 持ち運び方法は?ショルダー、手提げ、リュック、
    • 形や容量は?縦型?横型?大きさはA4?B4?A3、マチ幅は?
    • 今使っている鞄の耐久性は不満?
    • 不満はないが古くなったのでグレードアップ?
    • セキュリティ面は?

◆プロの提案

私たち依頼主の説明を聞きながらプロが考えるのは、どういう素材が良いのか、過去に似たような作例はあるか?構造上問題はないか等ということです。(いや、もっといろいろ考えるのでしょうけど)

ナイロン鞄では容易に構築できる形も、革素材では難しい場合があります。またはその逆もあります。つまり素人から考えると、こう作ればいいのに、というものでも実はいろいろ制約があって難しい場合があるわけです。なぜ難しいのか、できないのかということを素人にいちいち説明してゆくのは結構骨の折れる仕事です。鞄づくりはうまくても説明が下手な職人さんはたくさんいます。また、難しいのがその職人の技量によるところなのか、物理的に難しいのか、素人が判断できないのも難しいところです。

ただ、技量の問題にせよ、物理的な問題にせよ、その職人には無理な話なので、そこをゴリ押ししても無駄です。そういうときは、コンセプトや目的に立ちかえって、素材の変更、バッグの形状の変更などを検討すべきなのです。

このあたりの、押し引きのコミュニケーションの加減はかなり難しいように思います。あまり細かい注文は嫌がる職人もいます。あるいは最終的に変な使いにくい鞄になるとわかっていても、細かい注文がうるさいから言われたとおりにやるという職人もいます。あるいは、そんな注文じゃ、革素材の良さが生きないから、プライドに掛けて絶対にやらない、というような頑固職人もいます。そのへんは相性が合わなかったと言うしかないでしょう。

もうひとつ、手作りでオーダーするときの醍醐味は、量産品ではなかなか出せない凝ったつくりや技法、見えないところへの配慮を感じるところにあります。そういった手間の掛け方は職人さんがある種自慢にしているところであり、十分にうかがっておくことにしましょう。

そして、自分のコンセプトやイメージを使えるばかりではなく、時折プロの提案を聞けるような会話の進め方を心がけましょう。たとえば…。

  • うーん、困りましたね。じゃあ、なにかいい方法ないですか?過去の作品集、もう一度見せてください。
  • ほら、安い鞄とかで、こうなっているやつとかあるじゃないですか?そんなのできないんですかね?
  • こんな感じのポケットの付け方、おかしくはないですか?
  • 強度の問題とか大丈夫でしょうか?
  • もうすこし艶があって、しなやかな革で作るのは無理ですか?

 コンセプトはしっかりと伝え、技法等はしっかりと聞くというのが重要です。

鞄をオーダーするときに気をつけること(その4)

◆今使っている鞄や持ち運ぶ荷物、そのときの服装を実際に見せる

機能面からの不満が嵩じて鞄をオーダーしようと思う人も多いと思います。このポケットがもう少し広ければ、文庫本が入って便利なのにとか、デザインはいいけどショルダー部分がすぐに取れてしまうので何とかしたいといった類です。

一番いいのは、その不満を抱いている状態そのままで鞄屋さんに行くことです。これはオーダーメイドで無くても有効な手段です。たとえばスーツを着たサラリーマンが使うブリーフケースを考えているのであれば、鞄屋さんにはスーツ姿で行くのです。時計もいつもと同じものをはめます。鞄も同じ中身を詰め込みます。

たまの休日にスーツを着てゆくのもどうかと思うでしょうが、実際やってみると、ものすごく説明しやすくて職人さんの理解も進みます。

たとえば今、あなたがショルダーバッグのオーダーを考えているとします。そして、バッグのポケットから万年筆とメモ帳をいつでも取り出せるしたいという要望があるとしましょう。注意深い鞄職人としては、オーダーの主はショルダーバッグを左右どちらの肩に掛けることが多いのか、右利きか左利きかを是非確かめておきたいところです。それによってポケットの開き方、ペンホルダーの位置、ペンホルダーの太さなどについて的確な方針が固まるからです。右利きで右肩に鞄を掛ける人にとって使い勝手の良いポケットの位置は、左利きで右肩に掛ける人と恐らく変わってくるはずです。

そんなとき、実物があれば打ち合わせ時間は短縮され、職人さんはより多くの時間を提案やアイデア出しに使うことが出来ます。

普段どの程度の重さの荷物を入れて持ち歩いているのかを鞄職人が理解するのも重要です。今使っている鞄のどこが痛んでいるかを把握することにより、どのような鞄にすべきかアドバイスすることができるのです。

こうしたアドバイスは機能面だけにとどまりません。センスがあり革を熟知している職人さんならば、着ているものとのコーディネートにも多少配慮してくれるでしょう。使う側としては雑誌等によく出てくる白ヌメ革やボライドルレザーなどで一度は作ってみたいものです。金具を真鍮にするのかシルバーにするのか等も悩みどころですし、革を縫い合わせる糸の色などもバリエーションがたくさんあって大変です。

でもそれに合う服装や持ち物というものもあるわけで、もしかしたら知らない革で、ものすごく似合うものがあって、それがストックしてあるかもしれません。腕時計のベルトや文字盤は金ですか黒ですかシルバーですか?いつも使う万年筆は黒ですか?エンジですか?

百聞は一見にしかず。今使っている鞄や持ち運ぶ荷物、そのときの服装を実際に見せるというのはとても有効な手段です。

鞄をオーダーするときに気をつけること(その3)

最初はセミオーダーからはじめる

一番リスクの少ない鞄のオーダーは、やはりセミオーダーです。フルオーダーはやっていないがセミオーダーは可能という工房も多いので選択肢が広がります。また、セミオーダーの場合は、工房が提示する選択肢に答えてゆけば、相応のものが出来上がってくるので、楽です。

さて、セミオーダーに何を求めるかということですが、女性の場合は(と、決めてかかってはいけないのですが)エルメス等の意匠を真似た(というかほとんどコピーした)バッグを求める場合があります。本物は高くて手が出ないし、かといってニセモノを買うのもイヤ、ということでセミオーダーで安く似たものを作るという考えがあります。ただまぁ、セミオーダーに代用品としての価値しか感じないのは、少々さびしいことです。

セミオーダーにカスタマイズの多様性を求めるのであれば、お店のセンスではなく、いかにオーソドックスな型が数多く揃っているか等が重要になります。一方、お店のセンスや鞄のデザインが気に入っている場合は、オリジナル品がたくさんあり、そのお店の特徴をしっかり把握することが重要になります。

そこで、セミオーダーを考える場合は、そのお店のセミオーダーに対する方向性をチェックしましょう。 カスタマイズの多様性なのか個性やセンスを前面に出したものなのかを確認し、自分が求める方向性と合致しているかどうか確かめておきます。

一般的に、カスタマイズの多様性を確保する場合、素材等を1種類(たとえば白ヌメ革、多脂牛、帆布だけ等)あるいは数種類に絞り込んで、多様なバリエーションを可能にしているケースがあります。

お店のセンスや鞄のデザインについてもう少し書いておきます。たとえば革のブリーフケース等を買おうと真剣に調べ始めると、ブランドや工房によって作り出す鞄のシルエットや曲線、角の具合が微妙に違うことがわかってくるはずです。車に例えるならポルシェにはポルシェのラインや色気があって、ジャガーにはジャガーっぽいラインがあるように、鞄にもデザイナーの意志が色濃く反映しているモデルがあります。

そして、職人さんに話をきくと、その優美なラインを生み出しているのが手間のかかる作り方や手縫いでなければできないものだとわかったりします。

 ただ、職人さんが作りたいものと実際に売れるものは微妙に違っていたりするので、意識的に抑制している場合もあります。そこで、デザイン等が気に入ってセミオーダーをしようと思う場合は、その工房が得意なデザインや特徴を感じ取ることが重要です。会話ができるなら、「一番気に入っている鞄はどれですか?」「貴方のデザインカラーがよくわかる鞄はどれですか?」といった質問をしてみてもいいでしょう。そうすることで方向性がよりはっきりと見えてくる場合があります。

さて、セミオーダーをするときの注意点ですが、とにかく選択肢として何が可能なのかをしっかり確認することです。工房のほうは当然選択肢を知り尽くしているので、初めての人でも言わなくてもわかっているような感覚になるのでしょう。選択肢に対する説明があっさりとしている場合があります。恐る恐る「こんな変更できますか?」と聞くと、あっさりと「ええ、できますよ」という返事が返ってきたりします。ホームページには載っていても「その金具、もう在庫がなくなってしまったので取り寄せるとしたら2か月かかる」「その革はもう入荷しない」というような場合もあれば、「実はこういう革が入ったので、その型で作ってみようかと思っておたところなんだけど、どうですか?」という場合もあります。

したがって、注文可能かどうかはフルオーダー並みに確認し、ダメならダメでひっこめる、というやり方が良いように思います。

鞄をオーダーするときに気をつけること(その2)

革の厚みを考慮してポケットなどのガジェット過多に注意する

革の鞄をフルオーダーするときに一番犯しやすい失敗がこれです。柱の厚みを考えずに家を設計するようなものです。日ごろナイロンをはじめとする化学繊維等に囲まれていると、薄くても丈夫なのが当たり前になってしまいますが、革の場合は部位によって相応の厚さを必要とします。革の性質によっては薄く出来ないものやしなやかに曲がらないもの、逆に板のように硬くはならないものなどがあります。(布素材の場合でももちろん厚みの考慮は必要ですが、革よりは制約が少ないと思います)

フルオーダーの醍醐味と言えば、やはり手帳や携帯電話、iPod等様々なビジネスツールを間仕切りの中にぴったりと収めたいという欲求に応えてくれるところにあると思いますが、上等な革をそれなりの厚みで鞄の中を細かく仕切ると、意外と不細工になってしまうものです。オマケに鞄の自重がかなり重たくなってしまいます。

◆今使っている鞄の重さをはかったことがありますか?

オーダーするときには、今使っている鞄よりどの程度重たくなるのかを考えて、鞄職人さんと相談してみましょう。たとえば鞄の自重が1.7キロで、荷物の重さが2.5キロの場合、合計4.2キロの荷物を持ち歩くことになります。このとき鞄が1.7キロから2.5キロになった場合、合計5.0キロの重さになります。さあ、これから毎日5キロの荷物を持ち歩ける体力があるかどうかは、鞄職人さんにはわかりません。もし、重たくなるのを避けたいのであれば、今の鞄と同じ重さを目標にして、300グラム程度の増加を許容範囲とすべきでしょう。

◆解決策は鞄職人さんに相談しながら探ってゆこう

多くの場合、鞄職人さんと一緒になって、いろいろ解決策、妥協策を探ることになります。革のポケットをやめて布やゴムを使って代用する場合や、ポケットではなくベルトやスリット、間仕切り等をうまく使う場合などが出てきます。こういうときにいかにエレガントな代案を出せるか、というのも鞄職人さんの想像力や経験、勉強量によって変わってきます。さらに、一応の解決策があったとしても、デザインがエレガントではない場合や、メンテナンス上問題があったり、構造上丈夫ではなくなる場合などがあります。

職人さんの提案には、こうした構造上の考慮や懸念も含まれている場合があります。「言う通りにしてみてもいいけど、これじゃ数年経つとすぐにココの修理が必要になるよ」というような本音をどこまで出してくれるかにもよりますが、説明してくれる場合はしっかり聞いておいたほうがいいでしょう。

それでも職人さんの提案に納得行かない場合は、無理にオーダーを進めずに、いろんな市販の鞄の構造を見て研究してみるといいでしょう。

鞄をオーダーするときに気をつけること(その1)

密なコミュニケーションがとれる手段を選び、人間的相性に注意する

◆鞄のオーダーは、フェイス・トゥ・フェイスで
どの程度マニアックな鞄を作るかにもよりますが、多かれ少なかれ、自分の思いを鞄製作者に伝えるには、相応のコミュニケーション量と密度が必要になります。これだけネットショッピングや通販が普及してくると、鞄のオーダーについてもネットや通販で気軽に出来るような錯覚に陥ることがあります。しかし、オーダーメイドは既製品の購入とずいぶんと違います。たとえば背広を吊るしではなく、オーダーで作る場合にきちんと採寸してもらわないと不安だ、という人が鞄のオーダーを手紙やメールで済ますというのはちょっと矛盾しています。

場合によっては、ある程度ドレスコードが決まった背広よりも鞄のオーダーの方が難しい場合もあるでしょう。鞄職人は、相手がF1のレーシングスーツを作って欲しいのか、十二単を作って欲しいのかわからない中で、オーダーの相談に乗るわけです。性別、年齢、服装の趣味等、オーダーする側からすれば当たり前のことでも、オーダーを受ける側からすれば顧客一人一人ちがうわけで、なかなか難しいはずです。

たしかに顔を合わさずにオーダーできる場合もありますが、なかなか難しいものです。オーダーをする場合、特に込み入った他に無いオリジナル性の強い鞄をオーダーする場合は、できることなら、その気になれば顔をあわせることができる場所にいる職人さんに頼むべきでしょう。

もしも、頻繁に顔を合わすことが出来ないとしても、オーダー期間中1、2回は膝を突き合わせて相談できる環境は準備すべきでしょう。

◆工房の様子を肌で感じる
工房に出向き、顔を合わす理由はいくつかあります。まず、その工房の様子を肌で感じることです。鞄作りのセンス、得意な鞄や革、工房の整理整頓の様子などから自分に合うものかどうかを感じることができるはずです。鞄作りの得意不得意を見分けるのは難しいかもしれませんが、自分の好きな革や鞄の形があるかどうかをチェックしてみると良いでしょう。ブライドルレザーで作って欲しいと思っていても、お店に並んでいるのが爬虫類革が多ければ、意気投合する確率はやや下がるかもしれません。

◆整理された工房かどうか
工房の汚れ具合も要チェックです。工房を見せてくれない所もありますが、見える場合は、良く観察してみるといいでしょう。もっとも素人目には乱雑に見えても、そこに職人独自の並べ方の法則があるかもしれません。注意すべきは、ごちゃごちゃしているのと乱雑なのは違うということです。ただ、掃除していないとか、何か作業をしたらその後片付けをせずに次の作業に取り掛かるとか、ある場所から取り出した瓶を別の場所に片付けるとか、そういう行為が多い職人は要注意です。

◆本当は誰が作っているか
また、ホームページなどでは工房と謳っていても、実は単なる「受注センター」で、制作は別の場所(場合によっては海外)で行っている場合もあります。海外で制作すること自体は別に悪いことではありませんが、依頼する側が勝手に日本人が工房で作っていると勘違いしている場合があります。あるいは、腕はものすごいけど、ものすごい年配の方が一人で切り盛りしていて修理が不安だったり、熟練は一人だけであとは若い人だったり。とにかく、工房に出向くと、そういう諸々のことがわかる確率が高くなります。

◆過去の制作例を見せてもらう
ところで、オーダーを受ける工房の多くでは、過去の制作を写真に撮ってアルバムのようにして見せてくれます。もしかするとその中に同じような鞄を欲していた「同士」の作品があるかもしれません。職人さんが制作時の型紙を保存していれば、なおラッキーです。その鞄を作るときの難しさや、機能上の問題点等も把握しているはずです。きっと良いアドバイスがもらえるはずです。

あとは、やはり素材選びには、お店を訪ねるのが一番です。特に趣味に左右される革や金具については、お店で相談するのが一番です。例えば芯通しの革とそうでない革と、どう違うのか、革の厚みはどの程度がいいのか、果ては革の匂いなど、五感に訴える要素が強いものは、雑誌やホームページでいくら雑学を仕入れても始まりません。お店で実物を見てはじめてわかることがあります。

◆相性の問題
最後に、相性について書いておきます。どんなに優れた職人さんでも、やはり自分とは合わない人というのがあります。相談しても返事が少し思っているのとずれている場合や、バックグラウンドにしている知識や常識が違いすぎて話が合わない場合などです。年齢が大きく離れている場合などにもそういうことが起こるかもしれません。有名で優秀だという情報と、自分が五感で話が合わないと感じている直感のどちらを信じるべきか、迷うところかもしれません。もし、他に選択肢が無いのであれば、仕方ないでしょう。

注意しないといけないのは、相性を気にしているのは依頼人→職人だけではなく、職人→依頼人も同じだということです。もし、相性が合いそうだと感じたら、会話の中にさりげなく、音楽や、趣味や、海外旅行の話、スーツや靴などファッションの話を織り込んでみるといいでしょう。なにか同じベクトルを感じれば大収穫ですし、職人さんとしてもどんな趣味を持った人なのかを理解できるわけで、提案の方向性も定まってきます。

◆作ってやる、でも作っていただくでもなく、一緒に作る
お金を出して鞄をオーダーするというのは、基本的には「オマエのところで作ってやる」というスタンスなんでしょうが、プロの助言に耳を貸さずに要求をごり押しするのはよろしくありません。かといって、極度に遠慮して「作っていただく」「自由にやってください」というスタンスも良い結果に繋がりません。職人さんに心をこめて気持ちよく作ってもらう為には、一緒に作ってゆくというスタンスの方が良いように思います。

鞄のオーダーメイドをするときに気をつけること

鞄をオーダーメイドするときに気をつけるポイントを箇条書きにしてみます。
それぞれの詳しい話はまたおいおい書いてゆきます。

  • 密なコミュニケーションがとれる手段を選び、人間的相性に注意する
  • 革の厚みを考慮してポケットなどのガジェット過多に注意する
  • 最初はセミオーダーからはじめる
  • 今使っている鞄や持ち運ぶ荷物、そのときの服装を実際に見せる
  • コンセプトはしっかり伝え、プロの提案は良く聞く
  • サンプル、試作、プロトタイプにいくらお金を掛ける意思があるかをハッキリさせる
  • 鞄をオーダーするというより、鞄を共同で作りあげるという意識でいること

スーツや靴をオーダーするときには常識的な注文をする人が、鞄のオーダーとなると技法や革の相性などを無視した注文に走ったりする。
これは鞄が持つ機能的な側面が顔を出しているからでしょう。スーツの場合は、そのブランドが得意とするカラーがはっきりしているからオーダーするほうもそれをわきまえて注文するのでしょうが、実は鞄にも鞄職人一人ひとりのカラーや得意不得意があるようで(私たち素人にはなかなか見分けられませんが)、ほんとうはそのあたりをある程度分かってあげてオーダーするとよいものができるはずです。

ただ、スーツの仕立て等と比べると圧倒的に職人の数が少ないため、頼むほうも請けるほうもなかなか選択肢が少ないときがあります。そういったとき、頼む側にも作る側にも相互の事情をお互いに理解し合う余裕や姿勢が重要になります。そういったコミュニケーションが成立したとき、良いオーダー鞄ができる条件がひとつクリアされることになります。