【本】カバンの達人

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以前、同じ出版社から文庫本版形として出た「鞄が欲しい―万年筆画家が描いた50のカバン遍歴」と、同氏の万年筆への溺愛ぶりを形にした「万年筆の達人」を足して2で割ったような感じの本。独立系鞄職人の現在を切り取るという意味では貴重な本になりそうだ。

数百に及ぶ鞄を飾りものではなく使う道具として実際に使ってきた人が書く鞄への目線は相変わらず変幻自在で面白い。前回の「鞄が欲しい」は、鞄全体へのあこがれに、一澤帆布物語をプラスしたような内容だったが、今回は「独立系鞄職人」がフィーチャーされている。私もそうだが、鞄への興味が嵩じてくると、自然とその製作者に興味が出てくる。まえがきにも、今回のターゲットは鞄を愛し鞄と格闘する人間であると書かれている。

実際、第一章がFUGEEのカバン、第二章が職人のカバンということで、本の約半分が「独立系鞄職人」への話で占められている。残念なのは、写真が載っているのがFUGEEのカバンだけで他はすべて古山さんのイラストだということだ。個人的には、古山さんの鞄のイラストは写真と一緒に使うことによって、その雰囲気がより一層よく伝わるのではないかと思う。

Fugeeさんの鞄であれば、その何とも言えない優美な曲線美や直線、ブラスの光り具合を表現するには、やはり写真である。一方、それが使われている状態を頭の中で創り出して、それを形にするのには万年筆画が最高である。ダレスバッグをガバッと開けたところや内部構造の説明などは、写真ではどうも難しいところがある。掲載されている万年筆画のうちいくつかはお店で実物を拝見したことがあるが、やはり現物を見て万年筆画を見たほうがよいように思う。もし続編があるとしたら、鞄好きな写真家とのコラボをお願いしたいものである。

さて、今回第一章、第二章で取材されているのは、

  • FUGEE(渋谷)
  • ル・ボナー(神戸)
  • 一澤信三郎帆布(京都)
  • 小林哲夫(長野?)
  • 須田帆布(筑波)
  • 日下公司(札幌)
  • クレマチス(銀座)
  • TAKUYA

の8名。いずれも古山さんが足を運んで親交を結び、取材した内容だ。古山さんの私的視点からのかかわりあいだから、万年筆絡みの鞄オーダーエピソードなどがいろいろ出てくる。他人のやり取りだからどうでもいいといえばどうでもいいのだが、鞄を買ったり探したりするのに、こうやって人と人のたわいない付き合いや交わりがあることが嬉しい。

ただ、これから鞄オーダーを考えている人に役に立つ内容なのかどうかというと怪しい。むしろお気に入りの鞄工房とすでに親交を結んでいる人が、同輩だなぁとか思いながらニヤニヤしながら読むほうが楽しいのではないか。

前回の「鞄が欲しい」の一澤帆布のエピソードを書くというフォーマットが、今回のフィーチャーになったように、次への構想がいくつかちりばめられているように思う。一つは、古山さん自身による鞄のパーツや形状の(文化人類学的?)分類。もうひとつはあとがきにある、「もっともっと心を込めて作った鞄が町に溢れるような社会に」とか「新しい鞄職人を育て、メーカーは志を高く持ち、より良いカバン環境を作り出すことが国境を越えて世界平和を実現する一つの道です」といった指向性の提示。

どちらも大変な志だと思うけど、私もそれって必要なことだなぁと感じていることなので、どんな形で実現してゆくのか楽しみな部分である。