ファスナーを引く快感

日常生活でファスナーを開閉する機会というと、ズボンのチャックとか小銭入れのファスナーあたりが一番ポピュラーなんでしょうが、ガガーっとすこし長めにファスナーを開閉する快感というのは鞄ならではの楽しみであります。ファスナーは種類によって手応えや音がいろいろ違います。

車にうるさい人がハンドルの切れや遊びを楽しむみたいに、鞄のオーナーは錠前やファスナーの開閉を楽しむのです。(私だけ?)

ファスナーが気持ちよく開閉する条件は2つ。よいファスナーであることと、気持ちよく開閉できる鞄のフォルムであること。

ファスナーとしては、できるだけ軽い力ですばやく開閉できるほうが優秀なのでしょうが、個人的には務歯(エレメント)のゴツゴツ感がある程度伝わってくるほうが好きで、いわゆるコイルファスナーは好きになれません。

快感という意味では、どこまでいってもスムーズに同じ調子で動いてほしいのです。ソフトタイプのスーツケースなど、ズボンのチャックよりもずっと長い距離を同じ調子で開閉するときの快感は、まるで緩衝材のプチプチを潰すときの快感にも似ています。

もうひとつ重要な要素は引き手です。引き手の形状や大きさが開閉のしやすさに大きく影響します。メジャーなブランドになると引き手もオリジナルのものとなり、デザイン性と操作性を取り入れた形状となりますが、ファスナーの開閉に伴う快感を100%引き出すようなデザインにはなかなかお目にかかれません。

ここはひとつ工業デザイナーのみなさま、ファスナーを何十回と開閉して、「使いやすい引き手」ではなく「気持ちいい引き手」のデザインにチャレンジしてください。

ファスナーの務歯が手に伝わる快感を味わえるファスナーとその形状にマッチしたデザインの鞄。どことなく本末転倒のような気もするけど、鞄のファスナーは何度も何度も使い、人間に接触する部品なのだから、それぐらいの感覚があってもよいように思うのです。