鞄をオーダーするときに気をつけること(その5)

◆コンセプトはしっかり伝え、プロの提案は良く聞く

このテーマは一番難しいテーマです。オーダーする側、オーダーを受ける職人の側の普段のコミュニケーションスタイルがぶつかり合うところでもあります。鞄職人から見れば、優柔不断なタイプと、頑固なタイプはなかなかやりづらいお客さんのはずです。鞄職人さんにもコミュニケーションや説明が下手で変な人がいますが、それについてはまた別の機会にするとして、まずはオーダーする側が気を付けることを考えてみたいと思います。

◆コンセプトは何か

なぜ鞄をオーダーしようと思うのか。その気持ちがどれだけ職人に伝わるのかによって、職人さんの心の込め方は違ってくると思っています。頻繁に鞄をオーダーする人があまり浮気をせず一人の職人さんのところに通うのは、この心の込め方が伝わるからではないかと思います。どこぞの鞄メーカーの社訓(?)に「一針入魂」というのがありますが、魂を込めやすいコンセプトを伝えるのは重要なポイントです。

たとえば奥さんやご主人、息子さん等にプレゼントするのであれば、その気持ちは比較的伝えやすいと思います。息子さんの高校通学バッグだとか、奥様への何かのお祝いのプレゼントだとか。そして、どういうシチュエーションで使ってほしいのかを伝えます。ちょっとしたお呼ばれ等で使うのか、日頃、車で買い物に出かける時に使うとか。いろいろイメージはしやすいものです。

難しいのは、自分のために作る場合です。自分のことは自分で分かっているために、かえって他人に伝えることが難しくなります。たとえば「仕事で使います」と説明しても、鞄職人さんはいろんな人を相手にしています。お医者さんと商売人では違うでしょうし、銀行マンとWebデザイナーでは、もしかしたら普段のドレスコードが違うかもしれません。

そこでビジネス的にはオーソドックスな手法ですが、まず現状の問題点や不満な点を説明し、それを解決する手段として鞄を作ることにした、という話の流れを作ってゆくと比較的コンセプトが伝わりやすくなると思います。

  • 基礎情報
    • その鞄は誰が使うのか? 
    • その鞄は、通勤で使うのか?通勤手段は車、電車、バイク、自転車、あるいはその組み合わせ?
    • 持ち歩くときのかっこうは、背広?普段着?タキシードなど正装?スポーツ?コスプレ?
    • パソコンは持ち歩くのか?
  • 今、不便に感じている点
    • 持ち運び方法は?ショルダー、手提げ、リュック、
    • 形や容量は?縦型?横型?大きさはA4?B4?A3、マチ幅は?
    • 今使っている鞄の耐久性は不満?
    • 不満はないが古くなったのでグレードアップ?
    • セキュリティ面は?

◆プロの提案

私たち依頼主の説明を聞きながらプロが考えるのは、どういう素材が良いのか、過去に似たような作例はあるか?構造上問題はないか等ということです。(いや、もっといろいろ考えるのでしょうけど)

ナイロン鞄では容易に構築できる形も、革素材では難しい場合があります。またはその逆もあります。つまり素人から考えると、こう作ればいいのに、というものでも実はいろいろ制約があって難しい場合があるわけです。なぜ難しいのか、できないのかということを素人にいちいち説明してゆくのは結構骨の折れる仕事です。鞄づくりはうまくても説明が下手な職人さんはたくさんいます。また、難しいのがその職人の技量によるところなのか、物理的に難しいのか、素人が判断できないのも難しいところです。

ただ、技量の問題にせよ、物理的な問題にせよ、その職人には無理な話なので、そこをゴリ押ししても無駄です。そういうときは、コンセプトや目的に立ちかえって、素材の変更、バッグの形状の変更などを検討すべきなのです。

このあたりの、押し引きのコミュニケーションの加減はかなり難しいように思います。あまり細かい注文は嫌がる職人もいます。あるいは最終的に変な使いにくい鞄になるとわかっていても、細かい注文がうるさいから言われたとおりにやるという職人もいます。あるいは、そんな注文じゃ、革素材の良さが生きないから、プライドに掛けて絶対にやらない、というような頑固職人もいます。そのへんは相性が合わなかったと言うしかないでしょう。

もうひとつ、手作りでオーダーするときの醍醐味は、量産品ではなかなか出せない凝ったつくりや技法、見えないところへの配慮を感じるところにあります。そういった手間の掛け方は職人さんがある種自慢にしているところであり、十分にうかがっておくことにしましょう。

そして、自分のコンセプトやイメージを使えるばかりではなく、時折プロの提案を聞けるような会話の進め方を心がけましょう。たとえば…。

  • うーん、困りましたね。じゃあ、なにかいい方法ないですか?過去の作品集、もう一度見せてください。
  • ほら、安い鞄とかで、こうなっているやつとかあるじゃないですか?そんなのできないんですかね?
  • こんな感じのポケットの付け方、おかしくはないですか?
  • 強度の問題とか大丈夫でしょうか?
  • もうすこし艶があって、しなやかな革で作るのは無理ですか?

 コンセプトはしっかりと伝え、技法等はしっかりと聞くというのが重要です。