鞄をオーダーするときに気をつけること(その1)

密なコミュニケーションがとれる手段を選び、人間的相性に注意する

◆鞄のオーダーは、フェイス・トゥ・フェイスで
どの程度マニアックな鞄を作るかにもよりますが、多かれ少なかれ、自分の思いを鞄製作者に伝えるには、相応のコミュニケーション量と密度が必要になります。これだけネットショッピングや通販が普及してくると、鞄のオーダーについてもネットや通販で気軽に出来るような錯覚に陥ることがあります。しかし、オーダーメイドは既製品の購入とずいぶんと違います。たとえば背広を吊るしではなく、オーダーで作る場合にきちんと採寸してもらわないと不安だ、という人が鞄のオーダーを手紙やメールで済ますというのはちょっと矛盾しています。

場合によっては、ある程度ドレスコードが決まった背広よりも鞄のオーダーの方が難しい場合もあるでしょう。鞄職人は、相手がF1のレーシングスーツを作って欲しいのか、十二単を作って欲しいのかわからない中で、オーダーの相談に乗るわけです。性別、年齢、服装の趣味等、オーダーする側からすれば当たり前のことでも、オーダーを受ける側からすれば顧客一人一人ちがうわけで、なかなか難しいはずです。

たしかに顔を合わさずにオーダーできる場合もありますが、なかなか難しいものです。オーダーをする場合、特に込み入った他に無いオリジナル性の強い鞄をオーダーする場合は、できることなら、その気になれば顔をあわせることができる場所にいる職人さんに頼むべきでしょう。

もしも、頻繁に顔を合わすことが出来ないとしても、オーダー期間中1、2回は膝を突き合わせて相談できる環境は準備すべきでしょう。

◆工房の様子を肌で感じる
工房に出向き、顔を合わす理由はいくつかあります。まず、その工房の様子を肌で感じることです。鞄作りのセンス、得意な鞄や革、工房の整理整頓の様子などから自分に合うものかどうかを感じることができるはずです。鞄作りの得意不得意を見分けるのは難しいかもしれませんが、自分の好きな革や鞄の形があるかどうかをチェックしてみると良いでしょう。ブライドルレザーで作って欲しいと思っていても、お店に並んでいるのが爬虫類革が多ければ、意気投合する確率はやや下がるかもしれません。

◆整理された工房かどうか
工房の汚れ具合も要チェックです。工房を見せてくれない所もありますが、見える場合は、良く観察してみるといいでしょう。もっとも素人目には乱雑に見えても、そこに職人独自の並べ方の法則があるかもしれません。注意すべきは、ごちゃごちゃしているのと乱雑なのは違うということです。ただ、掃除していないとか、何か作業をしたらその後片付けをせずに次の作業に取り掛かるとか、ある場所から取り出した瓶を別の場所に片付けるとか、そういう行為が多い職人は要注意です。

◆本当は誰が作っているか
また、ホームページなどでは工房と謳っていても、実は単なる「受注センター」で、制作は別の場所(場合によっては海外)で行っている場合もあります。海外で制作すること自体は別に悪いことではありませんが、依頼する側が勝手に日本人が工房で作っていると勘違いしている場合があります。あるいは、腕はものすごいけど、ものすごい年配の方が一人で切り盛りしていて修理が不安だったり、熟練は一人だけであとは若い人だったり。とにかく、工房に出向くと、そういう諸々のことがわかる確率が高くなります。

◆過去の制作例を見せてもらう
ところで、オーダーを受ける工房の多くでは、過去の制作を写真に撮ってアルバムのようにして見せてくれます。もしかするとその中に同じような鞄を欲していた「同士」の作品があるかもしれません。職人さんが制作時の型紙を保存していれば、なおラッキーです。その鞄を作るときの難しさや、機能上の問題点等も把握しているはずです。きっと良いアドバイスがもらえるはずです。

あとは、やはり素材選びには、お店を訪ねるのが一番です。特に趣味に左右される革や金具については、お店で相談するのが一番です。例えば芯通しの革とそうでない革と、どう違うのか、革の厚みはどの程度がいいのか、果ては革の匂いなど、五感に訴える要素が強いものは、雑誌やホームページでいくら雑学を仕入れても始まりません。お店で実物を見てはじめてわかることがあります。

◆相性の問題
最後に、相性について書いておきます。どんなに優れた職人さんでも、やはり自分とは合わない人というのがあります。相談しても返事が少し思っているのとずれている場合や、バックグラウンドにしている知識や常識が違いすぎて話が合わない場合などです。年齢が大きく離れている場合などにもそういうことが起こるかもしれません。有名で優秀だという情報と、自分が五感で話が合わないと感じている直感のどちらを信じるべきか、迷うところかもしれません。もし、他に選択肢が無いのであれば、仕方ないでしょう。

注意しないといけないのは、相性を気にしているのは依頼人→職人だけではなく、職人→依頼人も同じだということです。もし、相性が合いそうだと感じたら、会話の中にさりげなく、音楽や、趣味や、海外旅行の話、スーツや靴などファッションの話を織り込んでみるといいでしょう。なにか同じベクトルを感じれば大収穫ですし、職人さんとしてもどんな趣味を持った人なのかを理解できるわけで、提案の方向性も定まってきます。

◆作ってやる、でも作っていただくでもなく、一緒に作る
お金を出して鞄をオーダーするというのは、基本的には「オマエのところで作ってやる」というスタンスなんでしょうが、プロの助言に耳を貸さずに要求をごり押しするのはよろしくありません。かといって、極度に遠慮して「作っていただく」「自由にやってください」というスタンスも良い結果に繋がりません。職人さんに心をこめて気持ちよく作ってもらう為には、一緒に作ってゆくというスタンスの方が良いように思います。