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どうして日本のビジネスマンは鞄が手放せないのか NHK BS-1「地球アゴラ 田原総一朗と世界のカバン」を見て

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  • 投稿者太田垣

※この記事は2012/1/6に書いた記事の改訂増補です

NHK BS-1 地球アゴラからの取材「男のカバン 持つ?持たない?」

2012年12月、NHKの取材スタッフより取材を受けました。聞くと、2012年1月15日放送のNHK BS-1「地球アゴラ」
http://www.nhk.or.jp/agora/agorapedia/2012_0115.html
「男のカバン 持つ?持たない?」ゲスト:ジャーナリスト田原総一朗さん
という回の取材のようでした。残念ながら当時BSの契約をしていなかったので私は見ることができませんでした。

この番組、NHKの世界取材網とリアルタイム性を活かし世界各国とつなぎながらの生放送番組で、私への取材は番組を組み立てるための事前取材やネタ提供といった感じでした。
後から仕入れた話を総合すると、番組の内容はおおよそ以下のようなものだったようです。

いろいろな質問を受けたのですが、つまるところ
・なぜ日本人は鞄好きなのか
・日本でサラリーマンが普通に鞄を持つようになったのはいつごろか?
の2点でした。

いや〜、この問いは意外と深いのですよ。

番組は、まず日本の通勤風景を映し、ほぼ100%の人が鞄を持っていることを確認します。ところがアメリカもイギリスもイタリアもドイツも、通勤時には鞄を持っていません。基本は手ぶらなのです。

その後、番組が持つ海外ネットワークを駆使し、トルコ、アメリカ、フランス、中国、ヤップ島等の鞄についての考察を進めてゆきます。

鞄を持つ男はお化粧道具でも持ち歩くのかと、鞄を手放さない男を女性っぽいと考える国、自分の財産はすべて手元に持っておきたいから鞄が手放せない国、せっかくのファッション・コーディネートが崩れてしまうからという国、鞄を持つことが男として一人前であることの証である国等、お国柄によっていろいろです。

なぜ日本人は鞄好きなのかそもそもその前提、ただしいのか?

なぜ日本人は鞄好きなのかを考える前に、そもそもこのテーゼが正しいのかどうかよく考えてみる必要があります。ひとりあたりの鞄の保有数が多いから鞄好きというわけでもないでしょうが、実際押し入れの中にひとりでいくつもの鞄を持っている状態を見ると、鞄好きだという主張もうなずけます。

それにヨーロッパの高級ブランドメーカーの主要輸出先は日本だと聞きますし、海外の鞄関係のサイトなどを見ても、日本のサイトはメーカーだけではなく、ユーザーの使用感や辛口コメントなんかも豊富で極めて関心が深くて濃いように思います。

じゃあ、なぜ鞄好きになったのかということを考えるわけですが、日本に西洋の鞄が入ってきてざっと130年くらいなものなので、せいぜいその間のどこかということになります。130年くらいの間のいつ頃、日本人が鞄好きになったのかということです。

いつから日本人は鞄好きになったのか古い映像を見てみる

曖昧な記憶と知識で書くならば、高度成長期以前は、日本のサラリーマンは手ぶらもしくは新聞を持っての通勤だったように感じています。植木等の無責任シリーズなんかでは、鞄を持っているのは重役ぐらいで、一般サラリーマンは手ぶらというイメージがあります。

まず、1956年の米軍が撮影した東京の様子。車からの撮影なので良くわからないが、街行く男性は、紙を丸めて持っていたりする程度で、手ぶらの人を多く見かけます。

下記動画は、1960年(昭和35年)の高崎から上野に向かを朝の通勤列車の風景です。まるでインドあたりの激混み列車を見ているようです。開始0:10頃にホームに到着する列車からホームで待つ乗客を撮ったシーンがあります。学生も多く映っているようなかんじですが、鞄を持っている男性は10〜20%程度といったところではないでしょうか。

女性もちらっと映っていますが女性はほぼ100%ハンドバッグを持っているように思います。

これは1964年(昭和39年)のバス通勤の様子です。やはり男性の大半はコートに手を突っ込んでいて、ブリーフケースを持っている人はさほど多くはいません。

更に1966年(昭和41年)の東京をドイツ人が撮影した記録です。3:30頃から通勤風景が映っています。新聞を持っている男性が増えています。ポーチを持っている男性もを見かけますが、全体からみるとさほど多くありません。

13:15頃からも銀座のショーウィンドウの風景が写り、通りすがりのサラリーマンが足を止めている様子が少し映っていますが、手ぶらが多い感じがします。最後14:00頃からの映像では、ブリーフケースを持ったビジネスマンが多く映っています。

下記動画の2:20あたりには1963年頃の通勤風景が映っています。FOR OGIKUBOとかTOKYOとかと映っているので新宿あたりだと思いますが、通勤サラリーマンの大半は手ぶらです。

下記の動画には0:20頃から通勤風景の映像が出てきます。いろんな場所がごちゃ混ぜになっていますが、アナウンスでは横須賀発久里浜行きと言っています。最初にちらっと移っているのは銀座線渋谷駅でしょうか?

こちらの動画は、日本の日常風景をドラマ仕立てで紹介しています。

最初の家庭の朝のシーンでお父さんは革のブリーフケースを持って出勤していますが、次の1:45あたりからはじまる通勤風景の撮影では、新聞を持っています。鞄は電車に忘れてきたんでしょうか(笑)

注目は、エキストラではないと思われる、他の人々の多くの人が手ぶらで出勤していることです。男性は封筒や風呂敷を持っている人を見かけます。女性はハンドバッグを持っている人が多いですね。
2:45あたりからのビジネス街の風景でもそれを感じます。

こうした高度成長期あたり動画を見ても、サラリーマンの多くは紙袋、新聞を持つ程度で、今のようにほぼ全員が鞄を持って通勤という雰囲気はありません。そもそも今よりも工場労働者の比率が多かったのでは無いでしょうか?鞄を持ち歩くのは、まず経営者とか医者のような独立した人で、次に自宅からは手ぶらで出勤し、会社に置いてある鞄で営業活動をするというパターンが主だったのではないかと思います。

ちなみに、銀座タニザワでダレスバッグを売り出して大ヒットしたのが、ジョン・フォスター・ダレス特使が来日した頃なので、1951年(昭和26年)。実際にダレスバッグを買ったのは一般サラリーマンでは無かったように思います。洋服も当時は吊るしではなくほぼすべてがオーダーメイド(仕立て屋さんにお願いする)だったと思います。

では日本人の鞄好きというのは、どこからきているのか。
私は、3つの要素が関連しているのではないかと思います。

(1)物質的に豊かになり自分の所有物があるようになり、(2)それを伴って鞄を持ち歩く移動先ができてきたからではないか、(3)そしてそれが子供の頃から大人になるまでずっと続いているからではないか、という3つです。

自分の所有物が無いのに鞄は必要ありません。先に紹介した昔の映像でも、手ぶらが多いのは会社に行くのに鞄が必要ないからだと思います。同じ時代でも、図書館で試験勉強に明け暮れる大学生の動画を見ると、学生はしっかりした革の鞄を持っています。勉強道具を持ち運ぶ必要があったのでしょう。

明治以前は電車交通網が発達していませんから住み込み丁稚奉公が基本だったでしょうし、当然個人所有物は少ないと思われます。電車等の通勤・通学手段が発達し、それを使って移動する必要があるから鞄も必要になるのでしょう。

単なる仮説ですが、海外では教科書は学校からの貸与なので家に持ち帰れないことが多く、鞄を持ち歩かない地域も多数あります。そういう国の人は鞄に固執することが少なく、フランスや韓国のように教科書を毎日持ち歩く国では、大人になってからも鞄を持ち歩くのが習慣になっていて、鞄への愛着があるように思います。

先ほどの通勤風景等をみるにつけ、日本人が鞄好きになったのも、高度成長期以降ではないかと思います。
スーパーマーケットが主流になる前の日本では、主婦の買い物は竹で編んだ買い物カゴ(http://cheerful2nd.blog39.fc2.com/blog-entry-62.html)なんかで近所の商店に行っていたはずですし、海外ブランドに手が届くようになったのもその頃でしょう。

ちなみに1952年の冬の有馬というこの動画の0:35あたりに、子供たちの下校風景が映っていますが、ランドセルではなく肩掛けの薄っぺらい布鞄というのに惹かれます。大きいランドセルを競っているCMの流れている今日からは想像できません。

昔からみんなランドセルを背負っていたというのも幻想であり、昭和30年代の小学生にとって、ランドセルは一種の憧れだったのではないかと思います。60歳代、70歳代の方々、子供のころの鞄事情はいかがだったでしょうか。

追記:
北陸にお住まいの方から、某県庁所在地では、団塊の世代に当たる人々が子供のころは、多くが皮革製ランドセルを所有していたというメールをいただきました。

また、別の鞄業界の方からは、戦時中の満州では、物資不足から狼製のランドセルが出回ったり、敗戦後は、鯨製のランドセルもあったという情報をいただきました。ランドセルの浸透は地域によってかなり差があると考えたほうがよいのかもしれません。引き続き情報お待ちしております。

追記:
TVで映画「ALWAYS 三丁目の夕日」をやっていましたが、貧乏な少年はランドセルを持っていました。やはり30年代にはそれなりにランドセルは普及していたのかな。

NHK BS-1 地球アゴラ「男のカバン 持つ?持たない?」の回

地球アゴラの中では、NHKのワールドネットワークを通じて、世界各地の人々に鞄に対する考え方を聞いていました。

トルコ

トルコの男性がカバンを必要としないその理由は…「ベニムチェブリ(私の周り)」。昔から遠出をすることが少ないトルコ人は、物をたくさん持ち歩かなくても、周りの人の助けで何とかなってしまうんだとか!お腹が空いた時には、ベニムチェブリ内の顔見知りの家に立ち寄れば軽食とお茶まで出してもらえます。必要な物はみんなで分け合うトルコ社会では、男性はカバンに入れるほど余計な物は持ち歩かないのです。

アメリカ

セカンドバッグ、肩掛けなどの小さめカバンはアメリカ男性にとって完全に「女性のもの」。これらは「パース」と呼ばれ、男性がパースを持つと「女々しい」とからかわれてしまうことさえあります。ちなみに、スーツケースなど大きなバックはOK。開拓・ゴールドラッシュ時代を経験したアメリカでは「マッチョで、有事に俊敏に対応すること」が古くからの理想で、小さなカバンを持たないことは、男のプライドにまで関わっているんだとか!

こちらもYouTubeで確認してみましょう。

1950年代のニューヨークの交通局が企画した地下鉄に関する映像です。

フランス

ポケットが膨らむとファッションスタイルが崩れるので、カバンを持つのだというおしゃれな理屈。本当かなぁ。

中国

中国の男性にとってカバンは「男らしさの象徴」。もともと現金主義の中国ではポケットに入りきらなくなったお金を入れるためにカバンを使っていた。経済的な成功が理想である中国では、カバンを持った男性は「お金を持っている人」=「甲斐性のあるイイ男」と周りに一目置かれる存在。昨今の競争社会の中では、カバンは「仕事が出来る男」の第二の名刺とも呼ばれ、見栄で持つサラリーマンや就活者も増えてるんだとか。

ミクロネシア連邦・ヤップ島

ヤップ島では男性が「ワイ」と呼ばれるカバンを持つことが伝統。親から一人前と認められた18歳以上の男だけが、母親が作ったワイを受け取ることができる。男性たちの集会に参加するにもワイを持っていることが条件。青年は親からもらった新しいワイに、自分が見につけた知識、経験をつめて大きくしてゆく。つまりワイは、ヤップの男の人生の縮図というわけ。

ルーマニア、ミャンマー、グラテマラ、ミクロネシア連邦ヤップ島では、持つことが伝統。台湾、香港、中国は、皆が持っているから。フランスは、持ち歩く物が多いから。コロンビアでは、カバンを持つことがファッション的なブーム。コンゴではすり防止。ロシアは…忘れた。

イギリス、スペイン、ベルギー、オランダ、イタリア、スイス、ドイツ、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、チェコ、ハンガリー、モロッコ、タンザニア、では、ポケットで十分との回答。

トルコ、パキスタン、インド、ベトナム、フィリピン、クック諸島、エジプトでは持つ者が少ない。

キューバ、チリ、バングラディシュ、アメリカ、カナダでは、持つのが面倒。つまりは、どうも持ち歩かないのがふつうなのです。

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