鞄と家庭用冷蔵庫の共通点

今、たいていの家庭の冷蔵庫はあふれんばかりにさまざまな食材、食品が詰め込まれている。「普段よりも安いから少し多めに買っておこう」とか、「卵や牛乳、ハム、チーズ、バターなどは日々の食生活に欠かせない」といった理由があるのだろう。

卵や牛乳、お茶、ビール、野菜、肉などの保管場所は、メーカーがあらかじめ定位置を決めてくれているのですぐにわかるが、厄介なのはちょっと小腹が空いた時だ。

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photo by diannehope at morguefile

何か口に入るものがないかと冷蔵庫をのぞいてみても、適当なものはなかなか見つからない。仕方なく、手前にあるものを外に出して、奥の方をゴソゴソやっていると、数日前のサラダの残りや、すでに賞味期限の切れたシャケの切り身などが出てくる。冷蔵庫が大型化すればするほどこの傾向は強くなっていく。

鞄の中身も、こうした家庭用の冷蔵庫と同じような運命をたどりやすい。

たとえば、こんなケースだ。朝出社すると、午後から訪問する予定になっていた得意先のG社の佐藤課長から次のような伝言があったと同僚からメモを渡される。「緊急会議に出席することになり、今日は本社にいます。会議の終わる夕方の四時すぎに、携帯電話に連絡をください」というメッセージと一緒に電話番号が書かれている。

そのメモを無造作に鞄に放り込んで会社を飛び出す。やがて約束の時間になったので、佐藤課長からの伝言メモを探しているのだが、見つからない。それまでの行動を思い出しながら、ここでもない、あそこでもないと鞄の中を探っていると、二日前のスポーツ新聞、クシャクシャになった一週間以上前のコンビニのレシート、ガスのなくなった百円ライター、中身の入っていないポケットティッシュの袋などが出てくる。

だが、いくら探しても肝心のメモは見つからない。あせりまくって同僚と連絡を取り、電話番号を確認してみても、覚えていないという返事が返ってくるだけ。これが最後だと、もう一度鞄を引っ繰り返して入念に調べてみると、読みかけの雑誌の間にはさまっているメモを見つけて、ホッと安堵の息をつき、ギリギリセーフで連絡の電話を入れることができた。

これまでにこんな経験をしたことがなかっただろうか。

つまり、限られたスペースに、雑然とあれもこれもとものを詰め込んでいけば、どこに何を入れたのかがわからなくなる。そして、必要な時に必要なものがすぐに取り出せないという結果になってしまう。

ところが、プロの調理人の冷蔵庫ならこんなことにはならないのと同じ理屈で、仕事のできるビジネスマンの条件の一つが、鞄の機能を熟知し、これをうまく使いこなすことでビジネス効率を高めている点であろう。では、どうすれば鞄がうまく使いこなせるようになるのかを考えていくことにしよう。

鞄と冷蔵庫の共通点がもう一つある。それは、外から見ただけでは中に何が入っているのかわからないこと。そして、ものをどんどん詰め込んでいけば、奥の方に何を入れたかがわからなくなってしまうことだ。

人間の記憶というのはずいぶんいい加減なものだし、思い込みや勘違いもよくある。「これは重要なもので、後で見つからないと困るから……」と、他のものと区別してわざわざ保管場所を確保したのに、肝心な時にその場所が思い出せないといったことも珍しくない。鞄の整理がうまくできずに、大事な時にゴソゴソ探し回らなければならない原因も、このあたりにあるのだと考えることができる。

少し以前のことだが、冷蔵庫の中に何が入っているのか一目でわかるよう、食品名と購入した日、ないしは調理した日付け日付、残量などをメモにして、これを冷蔵庫の扉にカラーマグネットで止めておくという主婦のアイデアがテレビで紹介されていた。つたない記憶をたどると、そのアイデアの主は買物に出かける前には必ず冷蔵庫のメモをチェックする。そして、できるだけ冷蔵庫の中の食材がムダにならないように夕食のメニューを決めてから買物に出かけるそうだ。

もちろん、冷蔵庫に入れる食品や食材をいちいちメモするのは手間がかかる。その手間をできるだけ省こうと思えば、余分なものは買わない、入れないということにもつながっていく。そして、これだけの準備ができていれば、冷蔵庫の食品を腐らせてしまったり、単に安かったからという理由で重複して購入することもなくなり、しかも、いちいち冷蔵庫を開けて中を確認する必要もなくなるために、食費や電気代の節約になる。

ビジネスマンが鞄をうまく使いこなすポイントも、この冷蔵庫の考え方とまったく同じだと思う。

まず、余計なものを入れないこと。上からどんどん詰め込むことをやめ、自分なりの基準で中身を分類し、その分類にしたがって整理をマメにすること。そして、あなた自身のビジネスで鞄の中には何が不可欠なのかというリストを作ること。


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